●ニュースNo139(2000年4月1日発行)

◎3・18集会報告

大井町ビラまき報告


 

3・18集会報告

 20世紀のうちに私たちの手で再審開始を

 -真実を裏付ける証拠開示-

 「かちとる会」は、3月18日、品川区大井町の「きゅりあん」で、花園大学教授の浜田寿美男さん、八海事件元被告の阿藤周平さんをお招きして集会を開きました。

 集会のタイトル「二十世紀のうちに私たちの手で再審開始を・・・真実を裏付ける証拠開示」は、定例会で検討し、今年こそは再審の門をこじあけたいという思いで考えたものです。このタイトルを今回もKさんが見事な毛筆で書いてくださり、会場の正面に貼りました。
 今回の参加者は78人。東京で開いたこれまでの集会で一番多い参加者で、立ち見も出るほどでした。初めて参加した人も14人いて、うち大井町で署名してくださった人が4人もいました。毎月1回、必ず大井町に立って来たのは無駄ではなかったと大変うれしく思いました。お忙しい中、来てくださった皆様に心より御礼申し上げます。
 今回、司会は亀さんにお願いしました。最初、亀さんは抵抗していましたが、うり美さんをはじめみんなに「絶対できるって!」と押され、最後は「よし、やってみるか」と引き受けてくれました。
 「大井町の署名集めで常にトップを走っている亀です」と始まった司会は、朴訥とした、亀さんの誠実さがよく伝わってくるものでした。

 集会は、最初にうり美さんが「現地調査を行なってみて」と題する報告を行いました。

 うり美さんは、現地調査に基づいて、検面調書の矛盾、員面調書から検面調書への変遷、検察官の誘導を説明し、「この事件は、検察官による極めて意識的なデッチあげだと思います。一審の裁判官は、こうした検察官による暗示・誘導を指摘して無罪にしました。ところが二審の裁判官は員面調書は記憶が整理されていない段階のもので矛盾してもしかたがない、検面調書の方が整理されていて信用できると言っています。
 しかし、これらの変遷が記憶の整理で説明できるでしょうか。ところが最高裁も二審判決に追随しました。富山さんは二審、上告審で、二度、三度とデッチあげられたのに等しいと思います」と指摘し、最後に「再審制度は真実を究明し、無辜の救済をはかることを制度の理念、目的としています。そうであるならば、再審の裁判所が二度と同じ過ちを犯さないよう、私たちは強く訴えるとともに、再審が一日も早く開始され、富山さんの無実が証明されるその日まで最後までたたかいぬくことを誓いたいと思います」と結びました。
 アンケートへの回答に「かちとる会の報告のていねいさは無実を証明するための気迫を感じました」と書いてくださった方がいましたが、うり美さんの頑張りがよくわかる説明でした。

 次に、甲山事件をはじめ数々の事件で供述分析を行い、富山再審でも、鑑定書「富山事件目撃供述についての心理学的視点からの供述分析」を提出してくださった浜田寿美男さんが、「今日の刑事司法における富山事件再審請求の意味」と題して講演を行なってくださいました。
 浜田さんは、「『百人の有罪者を逃すことがあっても一人の無実者を罰してはならない』という格言は、人権上重要な見方だと思うが、現在の日本の刑事司法の中では、『有罪者を逃してはいけないということが大事』と相変わらず考えられており、結果として有罪率99・9%以上という状況が生まれている。裁判官もこの99・9%に左右されていると日本の司法の現状を説明し、富山事件について、「約四十人の目撃者がいて、法廷で明らかになったのはそのうちの7人。あと27人の中には富山さんが犯人ではないという供述がある可能性がある。検察官のみが捜査権を持っていて、弁護士は何も持っておらず圧倒的にハンディがある。せめて証拠は全部出すというのがあたりまえだと思うが、検察官は出そうとしない」と証拠開示の重要性を指摘し、検察官がそれを拒否していることを批判しました。
 そして、現在、心理学者や法学者、法曹関係者たちの間で「法と心理学会」設立の準備が進み、目撃供述を証拠とする場合の「ガイドライン」が検討されていることを説明、富山事件の確定判決に書かれている「写真面割りの正確性を担保するため」と称する「七つの基準」が基準ならざる基準であることをひとつひとつ具体的に批判していきました。
 そして、「裁判の事実認定の過程は、科学的な検証の姿勢がなければならないと思うが、検察官のみならず、裁判官にもその姿勢が欠けている」「これまで日本の刑事司法はいっぱい間違いを犯している。ところが、なぜ間違ったかの調査を一切していない。そういう司法文化のひとつの結果として富山事件もあると思う」「富山さんの事件に限らず、日本の刑事裁判全体、それこそ日本の司法文化そのものを問うということをやっていかなければならないと思っている。そのためにも、富山さんの再審請求が認められて、公判廷で改めて審理されて無罪の判決が出されるようにならなければいけないと思う」と述べられました(浜田さんの講演については次回以降のニュースに掲載する予定です)。

 次に阿藤周平さんが、八海事件の当事者として七回の裁判をたたかった経験を話され、「八海事件が起きてから50年になろうとしているが、やっていないのに死刑判決、これは50年経っても、百年経っても忘れられない。激しい怒りを感じる」「自分が無実なのは真実。裁判官が死刑判決を二度、三度と出しても、真実は必ず明らかになるというのが私の支えだった。真実ほど強いものはない」「みなさんの力強い支援があったからこそ、私は支えられた。そのお礼として二度と八海事件のようなえん罪を起こさないために、私は富山事件をはじめとするえん罪事件の支援をしている」「富山さんの再審を支援して七年になる。くじけずにみなさんとともに頑張っていきたい」と訴えてくださいました(阿藤さんの講演は、次回以降のニュースに掲載する予定です)。

 次に、富山再審弁護団から葉山岳夫弁護士が、富山再審の現状を報告してくださいました。葉山弁護士は、検察官が弁護団が求めた証拠開示を拒否したことを怒りを込めて弾劾し、現在、裁判所に証拠開示命令を求めていることを報告、「弁護団は無実は無罪に、無罪の証拠を全て開示せよという叫びを強め、再審勝利のためにまず証拠開示を勝ち取っていきたい」と決意を述べられました。

 次に「かちとる会」から山村が発言しましたが、もうこの段階で集会終了予定の九時を過ぎており、用意していた原稿のほとんどを削り、証拠開示を求める署名運動への協力だけを訴えました。

 カンパアピールは、今回も坂本さんに行なって頂きました。「この事件の目撃証言がいかにおかしいか明らかになったと思います。阿藤さんが言われるようにたたかいの輪を広げていかなければなりません。そのためには費用がかかります。ぜひ富山再審勝利のためにカンパをお願いします」と手短に、しかし、力強く訴えてくださいました。時間がなくて申しわけありませんでしたが、にもかかわらず5万3千9百52円も集まったのは坂本さんの力だと思います。

 最後に、再審請求人の富山保信さんが、「再審の現状を決定的に突破していくには証拠開示がカギ。検察官が隠し持っている証拠を開示せよというたたかいに再審の成否がかかっている」「証拠開示を求める署名の輪を大きく拡げていく必要がある。これが再審の高い塀と狭い門を突破していく力になると思います。単に私だけでなく、すべてのえん罪に苦しむ人たちの無罪をかちとっていく、真実を明らかにしていく力をつくり出していく最大の突破口になると確信しています。署名へのご協力をよろしくお願いします」と訴え、集会を終わりました。

 みなさんのおかげで大変充実した、感動的な集会になりました。ありがとうございました。この集会をテコに必ずや再審を開始させ、再審無罪をかちとりたいと思います。今後ともご支援をお願い致します。 (山村)

□3・18集会報告

「現地調査を行なってみて」

 今回、私は、集会の最初に「現地調査を行なってみて」と題する説明をした。初めに、富山事件の概略とこの事件の争点となっている目撃証言の信用性について、当日講演していただいた浜田寿美男先生の鑑定書を引用しながら説明に入った。
 まず、公判で明らかになった7人の目撃者たち(一審証人=5人、二審=1人、供述調書のみ開示=1人)は、事件直後には富山さんとは似ても似つかない犯人像を言っていたこと、それにもかかわらずこの目撃者全員が富山さんの写真を「犯人に似ている」として選んでいること、また警察の取り調べを受けるに従い、だんだん富山さんに似た容貌を供述するようになっていることを説明した。
 次に、目撃者たちがどの位置で、どの犯人を目撃したのかについての説明に入った。目撃者たちは、早い人で事件発生から3日後、遅い人で41日後に行われた写真面割りで富山さんの写真を「犯人に似ている」として選んでいる。しかし、7人全員が富山さんの写真を選んでおきながら、どの人物を見て写真を選んだのかということになると三つに分かれる。
 この事件の警察・検察側が主張するストーリーは、犯人4人が被害者を追いかけてきて、そのうちの3人が殴り、1人は殴打に加わらず指揮をしていた(「指揮者」)であったというものである。富山さんはこの「指揮者」とされている。
 ところが、この7人の目撃者のうち、4人が「車道上の殴打犯人」、1人が「車道上の殴打場面にいた指揮者」として富山さんの写真を選んでいる。警察・検察の主張する「歩道上の指揮者」を特定して富山さんの写真を選んだのは2人だけだった。
 この点について、浜田先生の鑑定書には「はたしてこれが同一人物であるだろうか。それはありえない。そもそも殴打に加わらなかった指揮者と、殴打を直接行った人物とが一緒のはずがない。にもかかわらず、この七人が写真面割りで同一人物を選んだのである。これを決定的矛盾と言わずして何と言おう」と書かれていることを紹介し、この明らかに矛盾にはらんだ供述を、検察官が検面調書において矛盾を整合させたカラクリを図を使って説明した。
 「車道上の殴打場面の指揮者」を特定して富山さんの写真を選んでいた目撃者の供述は、「歩道上の指揮者」に変遷、「車道上の殴打犯人」を特定して富山さんの写真を選んでいた4人のうち3人は「逃走段階の犯人を見た」という供述に変遷、一人は「追走場面(犯人を待ち伏せしている場面)の犯人をみた」と供述を変遷させている。
 検察官は、富山さんが「歩道上の指揮者」であったとしたいがために、それにそぐわない5人の目撃者の供述を殴打場面から逃走場面、待ち伏せ場面へと場面を変えて、目撃者たちの供述が「歩道上の指揮者」と矛盾しないように目撃者を誘導して供述を変えさせ調書を作り直したのである。このようにして検面調書は、富山さんが指揮者であったとするために、員面段階のとても同一犯人を目撃したとは思えない供述の矛盾を整合させ、その矛盾を解消させている。

 私たち「かちとる会」は、目撃者たちがどの場所でどのように事件を目撃したのか、現場で検証してみた。その結果、検察官が作りあげた一見矛盾を解消させたかのように見える検面調書にも、実に無理がある、つまり紙の上での辻褄合わせでしかないということがはっきりわかった。

 集会では、検面調書で「車道上の指揮者」から「歩道上の指揮者」に変わったY証人、「追走場面(待ち伏せ場面)の犯人」が出てきたK証人、「逃走場面の犯人」が出てきたTK証人の供述の矛盾を図を使って説明した。TK証人にいたっては、供述どおりに行動するのは時間的に不可能である。これは現地調査で亀さんと富山さんが実際に走ってみてわかった。

 現地調査をやりながら、これらをコンピューターグラフィックで再現してみたらおもしろいだろうということになり、その予定で作業を進めていたが、どうにもこうにも間に合わず、しかたなく口頭で私が説明をしたのであるが、会場に来ていた人たちにどこまで説明しきれたか、いささか不安である。
 今回の集会は、初めて参加してくれた方が14名もおり、しかも大井町周辺の人の参加も多く、月1回の大井町でのビラまき、署名取りというのはかなり重要であるということがわかった。

 集会が終わると、毎回のように、「もっと、早く作業を進めていれば良かった」とか、「ああ言えば良かった、ああすれば良かった」とか、はたまた「今度は、こんなふうにしよう」とかいろいろと思うものである。
 今回も、集会直前になってようやくエンジンがかかった私に、山村さんが翻弄されっぱなしだった。私は、集会当日になっても自分が説明する「現地調査を行なってみて」の原稿ができあがらず、山村さんのストレスを倍増させてしまった。
 「集会前に何回かリハーサルをしておこう」なんて偉そうなことを言っていたのは私なのだが、説明の原稿は集会直前までかかり、ギリギリできあがった原稿を持って会場に駆け込み、リハーサルどころか本番でそのまま読み上げたという感じであった。なんとまあ慌ただしい、そして毎回、こんな感じなのである。 (うり美)

2000年3・18集会

 アンケートへの回答から

 集会に参加者にアンケートとお願いしたところ、多くの方々が協力してくださいました。ありがとうございました。

▼はじめて日本の司法の生の状況に触れ、変えるべきことが山積している現状を知りました。 (男性/38歳)
▼浜田先生のお話から、ぎょっとするような、日本の司法事情がよくわかりました。
 富山事件についての「妙な点」が数々出てきましたが、目撃証言が争点というならば、検察は、残り30何人の供述を明らかにすることが最低限必要ですね。この事実(明らかにされていないという)には、非常に驚きました。
 この点だけでも、検察の主張にバイアスがかかっていると思わざるを得ません。
 その他、明らかになっている目撃証言も、だんだんと集約されている点も妙だな、と感じました。大変勉強になりました。   
(女性/30歳)
▼浜田、阿藤両氏の話は考えさせられました(えん罪や人権侵害は、あすは我が身だと思いました)。
 (ニュースで)大井町でのビラマキと署名運動の記事を読みました。息の長い活動に感動をおぼえました。亀さん、うり美さん、山村さんガンバレ!
 労災事故で、労働省と交渉して六年位になるのにまだ決まりがつかず、仕事もしていず、カンパ出来ないでいます。郵便代も大変なのでお金がない時はニュース送らないでいいですよ。
 集会時は時間の許すかぎり出席したいと思います、その時はお知らせください。よろしく。
(男性/72歳)
▼現地調査報告は非常によかった。
 浜田先生の(確定判決の)七基準の全面批判はわかりやすかった。
 阿藤周平さんのえん罪に対する激しい怒りは正義の叫びであり、すさまじい気迫に弁護士として応えなければならないという思いを強くしている次第である。
 かちとる会の報告も力強かった。
(男性/63歳)
▼いつもながら「かちとる会」の報告のていねいさは、無実を証明するための気迫を感じました。
 浜田さん、阿藤さんのそれぞれの立場からの真実の追及の姿勢は感動しました。
 あらためて「再審開始」をかちとることが大事だと確認しました。
(男性/53歳)
▼熱がある集会でよかったと思います。
 現地調査報告―確信をもちました。
(男性/49歳)
▼浜田先生の話がきわめて鮮明でわかりやすかった。資料にあった裁判官や検察官の考え方のひどさはあらためてびっくりさせられる。
 阿藤さんのお話も初めてうかがって、権力に対する深い怒りと憎しみを持っておられることに学ばされ、自分もその怒りと憎しみをわがものとして、がんばって、再審勝利まで闘わなければと決意した。
(男性/56歳)
▼昨年12月の死刑執行について。
 臼井法相は再審中であろうとも、再審が認められる可能性がないようなら執行していくと述べました。
 “一人の無実者も罰してはならない”との立場どころの話しではない現状に怒り!
 「私は弁解しているんじゃないですよ。真実を述べていたんです。それを裁判長は、弁解しているとしか見ない!」「十七年、えぐりとられたまま、それが少しでも癒されるとすれば、それはえん罪事件がなくなること」……阿藤さんが昨日のように覚えている怒り、ここにえん罪とは何かがある。
(女性/43歳)
▼講演の途中から参加したが、浜田さん、阿藤さんの講演がいずれもとても良かった。 (男性/48歳)
▼浜田寿美男さん、阿藤さん、ともに迫力のあるものだった。
 富山さんの無罪を明らかにする資料、説明、今回とくによかったと思う。
(女性/45歳)

▼今回の事件説明は、“足で歩いた成果”を感じました。

 証拠開示をかちとる説得力、数と論理。

(男性/46歳)
▼浜田氏の講演も、阿藤氏の講演も内容がよかったが、時間が長いので、少々つかれました。 (男性/53歳)
▼証人の言辞の矛盾、目撃証人のそれぞれは矛盾そのもの、絶対的。その経過の説明でよく納得できました。
 阿藤さんの話は重みがあり、感激的です。
(男性/62歳)

 「司法改革」とは何か―その正体

 「司法改革」ということばを耳にし、目にする機会がふえました。

司法の現実を知るものにとって、その改革は急務です。あらためて言うまでもなく、改革が目指すものは、人権擁護・人権保障をまっとうするためにはどうすべきかでなければなりません。
 昨年(1999年)6月、内閣に司法制度改革審議会が設置され、7月27日から審議が始まっていますが、いまその方向に沿った審議がはたして行われているのでしょうか。
 もともと「普通の人」にとって“司法”は「他人事」であるうえに、マスコミにもてはやされる中坊公平なる人物があたかも目的は良いことであるかのように声高に叫ぶものだから、「司法改革」の本当の狙いが何なのかは見抜かれてはいないように思われます。
 司法制度改革審議会の委員は13名で、会長は元行政改革会議委員で司法改革に行革と同じ手法、考え方を持ち込もうとしている京都大学法学部教授の佐藤幸治。他の委員も、元日弁連会長にもかかわらず住宅債券管理機構(住管)社長をつとめ、不良債権の回収を「国策」と称して裁判官、検察官、警察と一体となって推進し、安田弁護士不当逮捕に道を開いた小渕内閣特別顧問の中坊公平、組織的犯罪対策法や少年法改悪の中心人物である東京大学法学部教授の井上正仁、団体規制法(第二破防法)を発動した公安審査委員会委員長の藤田耕三、曾野綾子・・・と反動的人物のオンパレード。主婦連事務局長を除いてまがりなりにも弱者の立場、人権擁護の立場から司法の現場にかかわった人物はおらず、財界代表が二名、「労働界」代表も元在タイ日本大使館一等書記官で労働貴族最右翼のゼンセン同盟代表、学者はいずれも政府自民党の“人づくり政策”“行政改革政策”に協力した御用学者ばかりという顔ぶれで、司法制度改革審議会設置法案に賛成した民主党や公明党からさえ異論がでたほど。12月21日に発表された「司法制度改革に向けて―論点整理―」(「論点整理」)によれば、今年(2000年)内に中間報告、来年の七月までに最終意見を取りまとめるとあります。
 「論点整理」の掲げる「司法改革」の目標は、一言で言えば《戦時司法への転換》です。日米新安保ガイドラインのもとで侵略戦争を遂行するために「この国のかたち」を作り替えようとするものであり、「国民がより利用しやすい司法制度の実現」「陪審・参審制度」「法曹一元制度」などまやかしにすぎません。

  少々長くなりますが、核心点を引用します。

 ― 「日本国民は、膨大な財政赤字と経済的諸困難あるいはある種の社会的閉そく感を抱えつつ新しい世紀を迎えようとしている」
 ― 「この国が豊かな創造性とエネルギーを取り戻すために、政治改革・行政改革・地方分権推進・規制緩和等の経済構造改革が構想され、実施に移されつつある。これらの改革は、国民一人ひとりが、統治客体意識から脱却し、自律的でかつ社会的責任を負った統治主体として、互いに協力しながら自由で公正な社会の構築に参画していくことが、二一世紀のこの国の発展を支える基盤であるという認識を共有するものであって、今般の司法制度改革はその最後のかなめともいうべきものである」
 ― 「国際社会」が「自由経済原則を基礎とする地球規模の経済市場を創出しつつあり」「国際的ルールは決して所与のものではなく、各国が自らの立場を明確に主張し、利害を合理的に調整するという過程を経て形成されていくべき」
 ― 「世界に展開する個人や企業等の安全とその権利をいかにして保護していくのか」
 ― 「我々(人民)は、従来、ともすると人的諸関係に過度に頼り、また、安易に行政に依存しがちではなかったかを反省しつつ、自律的個人が共生するためのルールの在り方について、もう少し自覚的に取り組む必要があろう」
 ― 「いま、この国は、国際社会において積極的な貢献を果たすことが現実に期待されているのであり、そして、それが同時に、この国が自らの正当な利益を主張し、確保していく最善の道でもある」

 だが、上記の「要請」にもかかわらず現状は、

 ― 「二一世紀の我が国社会で司法の比重が増大するなか」「司法の機能不全を指摘する声も少なくない」
 ― 「法曹制度の土台をなす」「弁護士の在り方について広く検討する必要がある」

 さらに、

 ― 「国際的な法的紛争が増大しつつある」
 ― 「司法制度改革は国際的視点を抜きに論ずることはできない」
 ― 「国際的ルールの形成・発展に積極的に参画する」
 ― 「諸外国への法整備支援体制の在り方や、国際仲裁法制の整備等国際的紛争を円滑に解決する方策をも検討する必要がある」

 というのです。

 なんともあからさまな主張ではありませんか。周辺事態法、組織的犯罪対策法、日の丸・君が代法、外国人登録法・入管法改悪、団体規制法(第二破防法)、そして今年一月に衆参両院に設置され「数年のうちに改憲をめざす」憲法調査会という脈絡のなかに、「司法改革」の正体は歴然としています。戦争をやれる国家のための《国家改造計画》です。

 わかりやすいことばに翻訳すると、こうなります。

 「司法改革」の方向性のひとつめは、日米の激しい争闘にみられるような弱肉強食戦を生き抜くための司法に変えなければいけない、「市場原理・規制緩和・自己責任は時代の要請」だから「行政に甘えるな」、戦後的諸権利を剥ぎ取って犠牲はすべて労働者人民におしつけるということです。

ふたつめは、治安の強化にほかなりません。

 それらを実現するためのキーワードが、「弁護士の在り方」だというのです。すなわち、「市場原理・規制緩和によって企業活動に伴う紛争が増大するから弁護士を増やす必要がある」が、その弁護士は支配階級に奉仕する御用弁護士でなければならない、そのためには司法試験合格者の増員や司法修習制度の廃止だけではなく司法試験に合格していなくても法律業務に一定年数たずさわった者に弁護士資格を与えたり、司法書士、弁理士、税理士、行政書士にも弁護士業務ができるようにする、さらに広告規制緩和や弁護士事務所の複数化・法人化といった弁護士業務の営利事業化を促進するうえに、公職との兼職と営利を目的とする企業の使用人となることの禁止も撤廃すること等をとおして弁護士会の変質を狙っています。「弁護士会にも規制緩和を」とは、弱肉強食の論理を貫徹させるということであり、人権擁護のためにたたかう弁護士を淘汰して、大資本や国や自治体などの行政、巨大法律事務所に属する弁護士が殆どにしてしまうということにほかなりません。その結果は、社会的弱者のためにたたかい、人権擁護を使命とする弁護士会は変質させられ、弁護士自治は解体されることとなります。かくして人権思想は解体され、基本的人権は抹殺されていくのです。
 治安の強化は、これまでの比ではありません。捜査権限の強化のために、司法取引、付帯私訴、時効の見直し等が検討されています。司法取引とは、被告側が有罪を認めるかわりに検察側が起訴の一部を取り下げたり、罪状を軽くしたりする制度であり、黙秘権の否定にほかなりません。これをゆるしたら、「共犯証言」の捏造はいくらでも可能であり、デッチ上げはやりたい放題になります。付帯私訴とは、被害者の加害者にたいする損害賠償の民事裁判を刑事裁判といっしょに行う制度であって、被告人の“無罪推定の原則”を否定して「被告人は有罪」の前提で審理するということです。要するに憲法と刑事訴訟法の原理的転換にほかならず、断じてゆるすわけにはいきません。

 さらに怒りに耐えないのは、「一審の審理だけでも相当長期間かかるものがあり、国民の刑事司法全体に対する信頼を傷つける一因ともなっている」と被告側の防御権を否定していることです。八海事件に典型をみるように、長期裁判の最大の原因は権力がデッチ上げをおこなうからではありませんか。責任を被告に転嫁して拙速裁判を狙うだけでなく、弁護人が違法な弁護活動を行うからだと懲戒処分を企むにいたっては言語道断です。
 「司法改革」は、法曹関係者や一部の訴訟当事者のみの問題ではなく、すべての人民の未来を決することがらであることがおわかりいただけると思います。すでに悪辣な「司法改革」の正体を見抜いてたたかいにたちあがっている心ある弁護士諸氏とともに、阻止あるのみです。 (富山保信)

 3月の大井町での署名集めは、

Kさん
7名
山村
6名
うり美さん
4名
富山さん
2名
合計19名

 今回は、前回、前々回続けてゼロという汚名を返上すべく頑張りました。

6ページのうり美さんの原稿にありますが、署名集めの前に行なった現地調査で全速力で走らされた亀さんはダウン(無理言ってゴメンなさい)。その分をKさんが頑張ってくださいました。
 なお、3月26日の成田空港に反対する三里塚での集会で富山さんが76名の署名を集めました。 (山村)

 

 大井町のYさんがまたカンパを振り込んでくださいました。いつもありがとうございます。
 振込用紙に書かれた伝言から……

▼「春も近い。明日のための第六歩。すみませんが三月の集会は出勤日に当たりますので出席できません(休日なのに)」(2月25日)

▼「“第六歩”(かな)。陰ながら支えられたらと思います」(3月28日)

 3月18日の集会に、大井町駅前で署名してくださった方が4人も参加してくださいました。中には3年前に署名してくださった方もいて、毎月どんな時も大井町に立ち続けて来たことが報われた思いで大変勇気づけられました。
 こうした地道な一歩一歩が確実に実を結びつつあることに、富山再審の勝利を確信できるように思います。これからもがんばります。 (山村)