●ニュースNo174(2003年3月1日発行)

証拠は誰のものか
正木ひろし弁護士の遺品、龍谷大学へ寄贈
大槻泰生さんからのお便り
読者からのお便り

大井町ビラまき報告


 

証拠は誰のものか
真実究明は証拠開示から 6・7集会

とき

ところ

6月7日(土) 午後6時開始

きゅりあん5階 第2講習室(JR大井町駅・東急大井町線大井町駅下車)【地図

《講演》

「『司法改革』と証拠開示問題」(仮題) 指宿 信さん(立命館大学法学部教授)

◎阿藤周平さん(八海事件元被告)

◎原田史緒弁護士(富山再審弁護団)

証拠は誰のものか

 1994年6月20日の再審請求から8年8ヶ月、検察官は私の無実を証明する証拠を隠したまま開示しようとはしない。裁判所も検察官に証拠開示を命令しようとはしない。

 あらゆる冤罪には警察・検察の証拠隠匿が潜んでいる。警察・検察の証拠開示拒否=証拠隠しを容認する(いっそ共犯者・加担者というほうが正確かもしれない)裁判所が冤罪づくりを助長している。

 検察・警察の証拠開示拒否の際の常套句のひとつに「関係者の名誉・プライバシーへの配慮」がある。しかし、これは大嘘である。昨年12月6日に行われた「冤罪・誤判はどうしたらなくせるか・・・司法改革と証拠開示のルール化を考える」シンポジウムにおいて、袴田事件の弁護団は怒りをこめて「検察官は証拠開示に反対する理由として『関係者の名誉・プライバシーへの配慮』を言う。しかし、警察が、捜査に必要だが『関係者の名誉やプライバシーに配慮する』として証拠の収集を断念したことがあるか?検察官が有罪の立証に必要な証拠だが『関係者の名誉やプライバシーに配慮して』裁判に提出しなかったことがあるか?検察官の『名誉・プライバシー』は欺瞞にすぎない」と弾劾した(『かちとる会ニュース』1月号参照)。まったくそのとおり。そして、それを実証する事例が、つい最近世間の耳目を集めた。

 2月26日、桶川事件の国家賠償請求裁判の一審判決があった。その報道の中にこんなくだりがある。

 「提訴は00年12月。『なぜ警察は、我々の切実な訴えに真剣に取り組んでくれなかったのか』という怒りと悔しさからだった。ところが県警は、捜査放置を認めた調査報告書から一転し、殺人事件は予見できなかったなどと主張、請求の棄却を求めた。提出を受けた詩織さんの日記を使ってプライバシーを暴露した。・・・詩織さんが身の危険を感じて自宅に残した『遺書』も『死を空想した情緒的な手紙』と一蹴した。元上尾署員らは、調書改ざん事件時の供述を覆す証言をした」(毎日新聞2月26日夕刊)

 要するに、「捜査放置の調査報告書」作成のために提出された被害者の日記を、国家賠償請求裁判で被告の県警・警察庁・国は、捜査放置の事実をごまかすためにとことん悪用して被害者の人格攻撃を行ったということだ。しかもおまけまであって、調書改ざんの刑事事件では刑を軽くしてもらうために捜査放置という事実を自白した元警官に圧迫を加えて、明らかに偽証させている。「嘘つきは警察の始まり」を身をもって示しているのだ。

 これは、ひとり埼玉県警だけの事例ではない。警察・検察そして官僚機構、すなわち国家権力の体質・本質・正体をものがたるものだ。裁判所ももちろん例外ではない。判決文(要旨)を読めば、歴然としている。

 ことはこれだけにとどまらない。26日当日は、東京高裁でもうひとつやっぱりと思わせる事例が生起している。同じ毎日新聞夕刊の紙面によると

 「神奈川県警戸部署(横浜市西区)内で97年11月、容疑者が死亡した問題が、拳銃自殺か第三者による発砲だったかが争われている訴訟」「銃刀法違反容疑で逮捕された男性(当時55歳)が取調室で死亡した。県警は『警察官の目を盗み、証拠品の実弾と拳銃を奪って自殺した』と発表したが、遺族が起こした民事訴訟で横浜地裁が昨年11月、『自殺はあり得ず、警察官の誤撃と認めるのが相当』と判断し、500万円の損害賠償を命じた」「控訴審第一回口頭弁論」で県警側は「一審で存在すら明かさなかった捜査記録」を含む「約60点の新証拠を提出した」

というのだ。

 なんということだろう。証拠とはいったい何なのだろう。そして、どう扱われるべきなのだろうか。

 はっきりしているのは、現状では、証拠は警察・検察の独占物であって、被告・弁護側はどういう証拠があるのかその存在さえ知ることが出来ないということだ。こんな状態だから、警察・検察は、被告の無実を証明する証拠を隠し、逆に警察・検察による権力犯罪を証明する証拠を隠すだけでなく黒ヲ白ニスルための証拠をねつ造することさえ可能になる。やりたい放題なのだ。

 国家権力が金(税金だ!)と権力を使って集めた証拠は、真実究明のための公共物であって、断じて独占・隠匿されてはならない。ところが、日本の刑事裁判は「当事者主義」とは名ばかりで、一私人と国家権力が対等だという虚構と擬制のうえにたって立証・反証を行わせたうえ「疑わしきは罰す」の事実認定をするのが実態である。これは、少しでも現実を知るものにとって共通の認識、常識ですらある。

 だから心ある人々にとって司法改革、とりわけ証拠開示問題の解決は急務である。

 では、現在急ピッチで進められている「司法改革」なるものは、少しでも現状を改善するものになるだろうか。まったく逆である。いっそう悪くなることはあっても、けっして良くなることはない。

 まやかし「司法改革」の目玉は、「裁判への国民参加」=裁判員制度である。この裁判員制度を鳴り物入りでもてはやし、狡猾にも「市民を長期にわたり拘束できない」という口実を設けて(被告の不当な長期拘留には一顧だにしないくせに!)迅速裁判=拙速裁判路線を押し進めようとしている。そのためには、公判前に「争点整理」をして裁判のシナリオを決めてしまい、「争点整理」になかったことは争わせない。そうすれば裁判は円滑かつ迅速に進行するというのだ。では、「争点整理」にあたって最低限、全証拠開示が保障されているのかといえば、それすら担保されてはいない。これに「証人保護」と称する法廷での証人尋問の制限、より正確には事実上の禁止が加わる。さらに戦慄すべきことに、免罪する代わりに捜査当局の指示の通りに「証言」=偽証させる司法取引の導入まで企まれている。それでも真実究明のためにがんばる弁護士には、処罰をもって臨むというのだ。これではひたすら有罪に向かって突き進む儀式であって、裁判ではない。これがまやかし「司法改革」の正体なのだ。

 まやかし「司法改革」には一片の幻想も抱けない。粉砕有るのみ。まやかし「司法改革」の正体を暴き尽くし、まやかし「司法改革」がめざす日本を戦争の出来る国にするための国家改造の「最後の仕上げ」、戦時司法の確立をなんとしても阻止しなければいけない。

 日本の刑事裁判の実状の徹底的暴露と弾劾、とりわけ証拠開示拒否=証拠隠しにたいする倦まず弛まぬたたかいの継続とまやかし「司法改革」粉砕のたたかいを結合させて、粘り強くたたかうならば、かならず広範な人民の支持、共感をかちとることができる。人民の目は節穴ではない。小泉支持が70パーセントとか80パーセントという日本の人民は一見したところ「再起不能」といわれても反論すら困難というところから、イラク侵略戦争反対が3分の2を上まわるところまできたではないか。阿藤さんもおっしゃるように「真実ほど強いものはない」のだ。真実の訴えはかならず人民の心をとらえる。「東京高裁第三刑事部は検察官に証拠開示を命令せよ」の署名運動を強力にやりぬこう。醒めた頭脳と熱いハートで戦時司法への道にたちはだかり、証拠開示―再審実現への展望を切り開いていこう。

(富山保信)

 数々の冤罪事件の弁護に取り組まれて名高い故正木ひろし弁護士の遺品が龍谷大学に寄贈され、裁判研究に役立てられるそうです。一昨年の「八海事件50周年・東京集会」の際に、ご遺族のご好意によって展示させていただいた八海事件の模型もその一部に含まれています。
 正木さんの遺志と業績が継承され、日本の刑事裁判を少しでも改めるために多くの研究者や裁判に関心を持つ人たちに活用されることを期待してやみません。

(下右 毎日新聞2003年2月2日・京都版)

(下左 毎日新聞2003年2月1日夕刊・大阪版)

権力者たちの「仁義なき戦い」をくい止めるために

大槻泰生

 富山さんが「私はやっていない。やっているというのなら検察官は自分の持っている証拠を見せてみろ」と再審を求め、証拠開示を求めてから、長い年月がたちました。

 いま、資本という化け物が全世界、社会と生活を暗く、深く、重く包み込み、巨大な独占企業同士は生死をかけたすさまじい競争を行い、その競争を後押しする国家は「仁義なき戦い」を繰り広げています。地球の資源特に中東の石油資源を核兵器を使用して民族を皆殺しにしてでも独占しようと画策するアメリカ、イギリス政権と、自己だけがうまい汁を吸うのはけしからんというロシア、フランス等々の国々の私利私欲の駆け引きは戦争にむかって突き進んでいます。

 戦争は最大の差別行為であり、人件否定行動です。その被害者は労働者階級です。そして、それをくい止められる力を持っているのも、われわれ労働者階級にほかなりません。

 アメリカ・イギリスと一緒になって、そのおこぼれにありつこうと必死の日本政府は、その政策に反対する人たちに「暴力集団」「過激派」なるレッテルをはり、ラジオ、テレビ、新聞、雑誌等々マスコミを総動員して、われわれと引き離そうと策動しています。私たちは、人を見るとき、「あの人は私たちと人種の違う人、劣った人、卑しい人、汚れた人、悪い人、怖い人」と予断と偏見を持って見てはいないでしょうか。それでは権力の「上見て暮らすな、下見て暮らせ」という人間の優越感情を煽る手管にのせられ、分裂・分断させられてしまいます。

 「司法制度改革」という名前で、再審どころか裁判すらうけられなくなる状況がもたらされようとしています。そうならないために、裁判所が警察・検察に証拠開示の命令を出すように働きかけを行いましょう。それは、私たちの幸せを守り、権力者どもの人権無視、「仁義なき戦い」をくい止める力になるのです。

 富山再審のたたかいは、東京大空襲をはじめ全国主要都市の人民が戦争によって被った悲惨な体験、いまなおヒロシマ・ナガサキへの原爆投下による後遺症に苦しんでいる市民の再現を許さない行動に結びつくのです。みなさん、声を出して証拠開示を訴えましょう。

 ■読者からのお便り

 練馬区のKさんから

 「毎月ニュースを送っていただき、ありがとうございます。そうそう、わが家に届いた唯一の闘春の年賀状、ありがとうございます。お返しのごあいさつもせぬまま、もう3月です。失礼いたしました。
・・・
 階級闘争の革命的な高揚から爆発の時代への突入のなかで、弾圧の最も凶暴な刃を突きつけられたこのたたかいに絶対に勝利しましょう。
・・・
 85年の逆転有罪判決に『あきれ返ってしまった』私は、弾圧のすさまじさに打ちのめされていたのかもしれません。どこから見ても100パーセント無実の富山事件は、目撃証言の誘導・でっち上げだけで『犯人』にされてしまう。命懸けで権力とたたかう80年代の決戦の対価として、人質とされてしまうのも、『しょうがない』と感じていたのかもしれません。今、富山再審の真価が本格的に発揮されるべきときです。あまりにも明らかなでっち上げ性、富山さんの言う『人間の尊厳をかけた』不屈のたたかいこそ、全人民を獲得するのです。
 軽薄な評し方で申し訳有りませんが、数々の獄中アピールの頃から、富山論文は『おもしろい、うまい』論文で、大好きでした。無署名でも筆者の顔の浮かぶ論文、アジテーションは今こそ必要です。リストラ、過労死、ホームレス、ファミリーレス、・・・人間性が根幹まで破壊されてきている時代、労働者人民は人間が人間らしく生きていく方法を待ちこがれ、耳を傾けています。富山さん、もっと叫んでください!
・・・
 次回のニュースといっしょに署名用紙数枚送っていただけたら幸です。
 寒さまだまだ厳しい折り、皆さんお元気で!」
というお便りとともに、五千円届きました。ありがとうございました。 富山さんには「もっと叫んで」いただきましょう。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 品川区のGさんから

 「拝啓
 いつもニュースを送っていただきありがとうございます。
 この度、住所を変更しましたので、連絡させていただきました。
 追伸
 ほんの気持ちですが、活動資金にお使い下さい。」
と三千円同封していただきました。ありがとうございました。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 広島のFさんから

 「前略
 皆様お元気ですか。私は元気です。
 皆様方、私が裁判中にはたくさんの署名やカンパをありがとうございました。まったく皆様方にとられまして知られない私の事件のためにたくさんの署名やカンパを本当にありがとうございました。
 私は皆様方の署名やカンパですごく勇気づけられました。私は一生皆様方のことは忘れることはないでしょう。本当にありがとうございました。
 私は皆様方に何かお返しをしようと考えていました。そしてでてきたのが、署名やカンパでした。
 皆様方が支援をされていらっしゃる事件で、署名やカンパの用紙を届けてください。私は一生懸命署名などをさせていただきますので、定期的に署名用紙を届けてください。すぐに署名をしてお届けしますので。それぐらいしかわたしにはできませんので。
 たいへん自分勝手なお手紙をさしあげましてすみません。皆様方が毎日すごくお忙しいことはわかってまして、このお手紙をさしあげました。どうかよろしくお願いします。
 今日はそのことが書きたくて皆様方にお便りをさしあげました。
 今日はこのへんで。
 お返事ください。待ってます。
 またお便りします。さようなら」というお便りとともに、署名が届きました。ありがとうございました。 なお、Fさんは冤罪とたたかい無実・無罪をかちとられた方です。

休載

 「明日の為の第三十四歩、
病気が長引いたために会社を解雇されてしまいました。できるところまで一緒に歩みます。
 でも季節は春になりつつあります」
というお便りとともに二千円いただきました。ありがとうございます。一日も早く回復されますように。