タイトル 無実の富山さんの再審無罪をかちとる会ニュース

●ニュースNo.205(2005年10月15日発行)

布川事件、再審開始決定出る
法と心理学会第6回大会に参加して

大井町ビラまき報告


Home Page News

布川事件、再審開始決定出る

 9月21日、水戸地裁土浦支部(彦坂孝孔裁判長)は布川事件の第2次再審請求で、再審開始を決定しました。1967年8月の事件発生から38年を経て、やっと再審無罪への突破口が切りひらかれました。請求人の桜井さん、杉山さん、そして弁護団の粘り強いたたかい(「刑務所で、今後の人生を再審にかけると決めた。生活は苦しいが、やるべきことをやっていく」・桜井さん)に敬意を表すとともに、私たちも負けずにがんばりたいと思います。
     この決定で注目すべきは、「2001年に始まった第2次再審請求で、検察側は弁護団と裁判所の要求で9回にわたって新たな証拠を明らかにした。中には、現場の毛髪が桜井さんら2人のものでないとした鑑定書など2人に有利な証拠も含まれていた」(読売新聞・9/21夕刊)という点です。検察官が隠している、富山さんの無実を証明する証拠の開示をかちとりましょう

□「法と心理学会第6回大会」に参加して

『目撃供述・識別手続に関するガイドライン』

 10月15日〜16日、立命館大学において開かれた「法と心理学会第6回大会」に、富山さんとともに参加した。
 今回の大会で、私たちが最も注目し期待したのは、大会第一日目に行われたワークショップ「目撃供述ガイドラインが刑事実務で果たす役割」という企画だった。というのは、ここで、『目撃供述・識別手続に関するガイドライン』が正式に発表されたからである。イギリスなどで採用されているルールに相当する、科学的根拠に基づいた、目撃供述についてのガイドラインは、日本ではこれが最初のものとなる。
 このガイドラインは、6年前に開かれた「法と心理学会」設立準備会で提案された「捜査段階における犯人識別のためのガイドライン(案)」を完成させたものである。ここ数年にわたって、「法と心理学会・ガイドライン検討部会」の心理学者、法学者、実務家の方々を中心に研究、検討が重ねられ、今大会で、『目撃供述・識別手続に関するガイドライン』という冊子として出版された(法と心理学会・目撃ガイドライン作成委員会=編/発行=現代人文社/二八〇〇円)。

 『目撃供述・識別手続に関するガイドライン』は、三部構成になっており、22名の心理学者、法学者、実務家の方々によって執筆されている。「第T部」で目撃供述・識別手続に関するガイドラインが提起され、「第U部」でその解説、「第V部」で「法と心理学の架け橋を求めて」と題して心理学者からの提起がなされている。
 この「第V部 法と心理学の架け橋を求めて」については、浜田先生が、その冒頭で、「片方に法の世界の現実を眺め、また片方に心理学の世界の現実を眺めたとき、そのあいだの懸隔の大きさにあらためて驚く。つい先頃まで、法の世界は『科学としての心理学の手前』にとどまり、心理学の世界は『法が対象とする人間の現実世界の手前』にとどまっている、そう皮肉りたくなるほどに、法と心理学のあいだの溝は深かった。こうしたなかで私たちは、心理学の側から法の世界に向けて声をあげてきた。(中略)第V部として掲載するのは、このガイドライン作成の準備段階で、私たち心理学研究者たちが、法と交わるところに生じた諸問題について、それぞれの専門領域から論じた論考である。執筆者はみな、具体的な裁判事例の渦中に身をおいて、その溝の深さを自ら味わい、2つの世界のはざまで、『法と心理学の架け橋』の必要をつくづく痛感させられてきた者たちである」と、第V部が書かれたいきさつについて説明されている。
 この『目撃供述・識別手続に関するガイドライン』では、富山再審の内容についても各所で取り上げられている。
 まず、「第U部 第1章 『目撃』はいかにして証拠たりうるか」で、浜田先生が富山事件における目撃供述の変遷について触れ、確定判決の「写真面割りの正確性を担保するための基準」(「7つの基準」)について批判されている。そして、法学者の方が、心理学鑑定を排斥した二〇〇四年三月三〇日の富山再審請求棄却決定について、「(心理学的分析結果について)その内容とは相反する判断を裁判官がするのであれば、当該分析結果を排斥する理由を論理的に示さなければならないはずだ。当該分析結果が被告人と犯人の同一性を否定するものである場合はとくにそうである。しかし、実際にそのような説明がなされることはほとんどない。論理的に排斥理由を説明できないということは、反対仮説を消去しきれていないことを示唆し、合理的疑いを超えた証明原則違反の疑いを当事者に抱かせる。どうやら、ブラックボックスのなかにあるのは、証拠収集過程だけでないようだ」と批判している。
 また、富山再審で鑑定書や意見書を提出しているH先生が、「第U部 第6章 写真面割手続―被疑者が特定されていない場合」で、富山事件の写真面割りで使われた写真の中で富山さんの写真がとりわけ特異性が高く選ばれやすいものだったことを明らかにした意見書を引用している。そして、確定判決の「写真面割りの正確性を担保するための基準」(「7つの基準」)のひとつの「なるべく多数者の多数枚による写真が使用されていること」が、何の基準にもならないことを明らかにしている。
 さらに、「第V部 第2章 目撃供述における知覚の問題」においては、目撃者の一人、I証人の目撃状況(右0・3〜0・4、左0・1〜0・2の視力で、16・45m離れたところにいた指揮者を目撃)では、顔を正確に識別し写真選択を行うことは不可能であることを明らかにした鑑定書を引用している。
 富山再審にとって、『目撃供述・識別手続に関するガイドライン』が公刊されたことの意味は非常に大きい。
 「法と心理学会」のワークショップでは、このガイドラインの有効性について討論が行われた。その中で、これが実際の捜査で使われるだろうかという議論があった。ガイドラインは、詳細かつ厳密に、目撃供述・識別手続について規定している。確かに、捜査官の側がこのガイドラインを直ちに採用するとは思えない。しかし、目撃供述の信用性が争点となった時、法廷で弁護士はこのガイドラインをぜひ使ってほしい、裁判官にガイドラインの存在を繰り返し示していくことが現状を変えていく、という意見は重要だと思った。こうした中で裁判官も認識を深めていくであろうし、さらには、ガイドラインの考え方に賛同する裁判官も出てくるのではないだろうか。ひいては、それが日本における目撃供述を証拠とする場合の手続きを変えていくことにもなるのではないだろうか。すでにニュース一九二号で紹介したが、目撃証言の危険性について、渡部保夫先生他の論文を引用して指摘し、無罪判決を言い渡した裁判官もあらわれている(大阪地判平16・4・9 判例タイムズ一一五三号)。
 これまで日本においては、富山事件の確定判決の「写真面割りの正確性を担保するための基準」が判例等で「基準」とされてきた。これに対して、科学的なガイドラインが打ち出されたことの意義は大きい。また、これまで欧米のルールを引用して目撃証言を批判していたが、今後は、日本の現実に則して作られたこのガイドラインに基づいて批判できる。
 ガイドラインが実際の捜査に用いられるかどうかについて、浜田寿美男先生は、『目撃供述・識別手続に関するガイドライン』の「はじめに」で、以下のように述べられている。
 「ここに提起されたガイドラインについては、法学研究者・法実務家から、捜査実務とのあいだにあまりに大きな懸隔があって、現実的な影響力をもちえないのではないかという懸念が述べられた。なるほど現実との隔たりが大きいというのはそのとおりである。しかしだからといって、ガイドラインの基準を低くするということにはならない。むしろ現実化可能な範囲で最大限の理念を示すことで、その理念との対照によって現状の捜査実務の問題点を明らかにできるはずだし、またそうであってこそ現実の事件について捜査手続に関わる心理学上の問題を具体的に指摘することができる。そしてガイドラインが実際の裁判のなかで援用されるようになれば、結果として捜査実務を変えていく力にもなるはずである。」
 ワークショップでは、「こうすれば目撃証言は信頼できるという積極的考え方と、コントロールとしてのガイドラインという消極的考え方がある。これを踏まえていれば信頼できるという規範は危険を伴う。最低限これを踏まえていなければだめだということではないか」という意見も出された。この点は重要だと思った。他にもいろいろと貴重な意見が出され、大変有意義な企画だったと思う。
 ガイドラインの今後については、「法と心理学会としては、心理学鑑定が法廷で用いられるために、ガイドラインを広めるとともに深める活動も行いたい。最終的には学会として鑑定人を推薦するということも視野に考えている」とのことであった。

 なお、今回の大会は、「供述や証言の真偽判断における2つの心理学手法の検討」と題したワークショップや、「取調べの可視化をめぐって:法と心理の対話」と題する公開シンポジウムも行われ、大変勉強になった。機会があったら紹介したいと思う。 (山村)

【付録】

 お天気が良かったので、大会の休憩時間に少し歩いて龍安寺に行ってきました。たまには心静かに自然を愛でるのもよいものです。

大井町ビラまき報告

亀・・・・3
うり美・・・0
山村・・・3
富山・・・0

 秋分を過ぎて秋風が心地よい季節になってきたが、今日はまだ夏の暑さが抵抗しているような日だった。
 さぁ、ビラまき開始。視線を右に移すと開始早々、亀さんは署名を取っている様子。さすがであるが、この光景にも慣れてしまっている。取って当たり前の優等生。あとは私たち3人のうち誰が署名を取るか、取れるのかにかかっている。
 開始から30分。まさに「棚からぼた餅」とはこういうことをいうのか。ぼたっ、ぼたっ、ぼたっと三つも落ちたのは、山村さんであった。私を素通りして山村さんに次から次へと署名が。嘘のような光景であった。これも日頃の行いの賜物か、ということにしておきましょう。
 ビラまき報告は、負けた人が書くきまりになっている。今回は、富山さんと私がゼロなのでジャンケンで決着をつけることになった。この間、富山さんとのジャンケンは私がすべて勝利していた。だからこそ期待を込めてジャンケンポン。あいこだ。アイコデショ。決まらない。アイコデショ。またしても決まらない。嫌な予感がしてきた。更に大きな声でアイコデショー。げっ、なんと負けてしまった。嫌な予感的中。長期戦になると、この世代の粘り強さには叶わない。  (うり美)

大井町のYさんから

休載

jump page top