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ニュースNo157(2001年10月1日発行)

 

●ニュースNo157(2001年10月1日発行)◎富山保信さんと「かちとる会」が 東京高裁に申し入れ

大井町ビラまき報告

  

■富山保信さんと「かちとる会」が 東京高裁に申し入れ

 9月11日、富山保信さんと「かちとる会」のSさん、Hさん、うり美さん、亀さん、山村の計六名で、富山さんの再審が係属している東京高裁(第三刑事部)に対し、証拠開示と一日も早い再審開始を求めて申し入れを行いました。
東京高裁第三刑事部は、今年四月に仁田陸郎裁判長が異動し、代わって中川武隆(なかがわ・たけたか)裁判長が着任しました。再審請求以来、今回で五人目の裁判長です。
前回に続き今回も、第三刑事部の裁判長はおろか書記官さえ会わず、訟廷管理課から船戸訟廷管理官他二名の職員が現れただけでした。再審請求人本人である富山さんの話を聞うともしないで、裁判官は一体何を審理しようというのでしょうか。改めて怒りがこみ あげて来ました。
申し入れでは、最初に富山さんが用意した申入書(別掲)を読みあげ、以下のように申し入れの趣旨を説明しました。
「1994年6月に再審請求を行ったが、最初の早川裁判長から五人も裁判長が交代してきている。しかも主任裁判官もわからない状態におかれている。実質的には店晒(たなざら)しの状態としか思えません。
申し入れと言っても、私が裁判官に会うこともできない。それどころか去年からは書記官にも会えなくなった。訟廷管理官は裁判の内容に何の責任も持ってお らず、申し入れと言っても形だけではないか。せめて書記官に会って申し入れできるように検討してほしい。裁判長が交代するたびに何度もしきりなおしという 状態は、再審請求の当事者としては極めて遺憾なことです。裁判所はいろいろな事件を抱えているというのでしょうが、再審請求していることを正面から捉えて 取り組んでほしい。
弁護団の折衝でも裁判官に伝えてもらっていますが、証拠開示問題は切実な要求です。これまでの再審無罪事例でも証拠開示がカギになっている。裁判所が証拠開示命令を出すよう強く求めたい。
具体的には、この事件では四十人の目撃者がいて、そのうち三十四人の供述調書があると二審で捜査責任者の警察官が証言しています。これは調書にも記載さ れており、当然裁判官も知っていると思いますが、そのうち七人の供述調書しか開示されていません。検察官は自らの主張にとって不利な証拠は出そうとしな い。
確定判決の是非を問う再審なのだから、すべての証拠を開示して判断すべきです。検察官が持っている証拠は税金を使って集めたもの。国費を使って集めた証 拠は国民の前にすべて出してしかるべきであり、検察官のみが隠し持っているのではなく、その判断を第三者に問うべきです。少なくとも公務員であるならばそ うすべき。なのに証拠開示を拒否している検察官は職権を使って立証活動を妨害しているに等しい。
しかも、今回は全証拠を開示せよというのではなく、具体的に特定して開示を求めている。しかし、検察官は、本件での私の逮捕写真すら開示しようとしませ ん。逮捕写真の開示を拒否する理由があるとは思えない。誰が考えてもおかしい。裁判所は、検察官に対し証拠開示命令を出してほしいと強く要請したい。その ことを必ず裁判官に伝えてほしい」
富山さんに続いて「かちとる会」のSさんが次のように発言しました。
「正直言って、再審請求から七年、ここまで放置されているとなると、検察官と裁判官がグルになっているのではないかとさえ思えてくるんですよね。七年間 というのは、生まれた子供が小学校に入るという年月ですよ。僕は、富山さんの再審をうやむやにするために、裁判長を交代させているのではないかとさえ思 う。
検察官が証拠開示を拒否するのは職権乱用ではないでしょうか。公平な立場で、裁判所は、すべての証拠を出すよう検察官に言えるはずだと思うんです。法は 誰に対しても平等なんでしょ。これが通らない。力のある方ばかり向いているというのは信用を失うことになる、公正な裁判のためにもぜひ証拠を開示するよう に裁判官に伝えてください。
僕はこの前も来ましたが、毎回同じことを言うしかないという事態は、まったく審理が進んでいないということですよ。大体、僕たちが話したことは裁判官に伝わっているんですか。
富山さんの立場に立ったら、罪人だという烙印を押されたままなわけで、それがどういうことか、裁判官も人間ならわかるんじゃないですか。裁判所はこんな りっぱな建物だが、外は良くても内側が伴わなければ何にもならない。自分たちの都合の悪いことは蓋をするという体質はよくない」「事件からすでに二十七年 が経とうとしている。このままでは、富山さんにとって有利な証人が死んでしまうかもしれない。裁判所が証拠開示を命令しないということは、裁判所が証拠隠 滅をはかっているはいうことにもなりかねませんよ」
その後、Hさんが発言しました。Hさんは、大井町駅前での署名で知り合って以来、集会などに参加してくださっている方で、裁判所への申し入れにも昨年に引き続き駆けつけてくださいました。
Hさんは、
「刑事裁判の鉄則として、物的証拠がなければ有罪にできないはず。目撃証言というのは非常に問題のある証拠とされている。しかも、七人の供述調書だけを 開示して、他は隠して有罪をつくりあげている。二審判決を読んだが、これが法の専門家の文章かと思わせるような杜撰(ずさん)な内容だった。これに不審を 抱かないで容認するのはおかしい。
申し入れに来ても、裁判所はいつも上に報告すると言うだけでしょう。上がったり下がったりのエレベーターじゃあるまいし。
私が特に強調したいのは、三十四人の調書をすべて出すことが重要だということです。これを強く裁判所に要請したい。
一日も早く富山さんの人権の回復、つまり再審無罪をお願いしたい。皆さんも人の親でしょ。七年の歳月の意味を裁判長によく伝えてほしい」
「再審請求から七年間も放置しているという事例が他にあるのですか。どうして、せめて二~三年で開始するというようにならないのでしょうか。再審を請求 する側に新しい証拠を捜せというが、検察官が隠している証拠があるんですよ。それを出せというのが、裁判所の仕事ではないですか。
二審の有罪判決に自信があるのなら、七年も放置することはあり得ないと思う。検察官にすべての証拠を開示させ、それを見て判断を下すという方法もあるの ではないでしょうか。本件の目撃証言が作られたものであるのは素人でもわかる。三十四人の供述調書すべてを出して審理するのが公正な裁判というもの。七年 も再審無罪を求めている人がいることの意味を考えてほしい」
と訴えてくださいました。
亀さんも証拠開示の重要性について、開示を求めている証拠の意味を具体的にひとつひとつ説明しながら訴え、山村も富山さん本人の声に裁判所は耳を傾けてほしいと訴えました。
船戸訟廷管理官の対応は、申し入れの内容は伝わっているのかという追及には「必ず伝えている。しかし、私たちとしては裁判官に感想を聞く立場にない」と 言い逃れ、坂本さんに「裁判所は都合の悪いものには蓋をするのか」と言われ、「そんなことはありません」とあわてて答えるというもので、内容のある回答は 得られませんでした。だからこそ、訟廷管理官ではなく、せめて係属部の書記官に会って話を聞いてほしいと訴えているのです。
富山さんが、再度、
「公正で迅速な裁判を受ける権利は憲法に保証されていることです。再審においてもこのことは守られなければならないはず。公正な裁判で結論を出してほしいということに対する回答は再審無罪以外ないと確信しています。
前任の粕谷さんは、前回の申し入れの内容を高裁第三刑事部に伝えると言っていたが、いつ伝えたのか、きちんと伝えたうえでそれに対して裁判官からどうい う回答があったのか申し入れをした私たちには伝わって来ない。今回、裁判官がどう聞いていたか回答はもらえるのですか」と問うと、船戸訟廷管理官は「前任 の粕谷は直ちに伝えたと思う。私たちが、裁判官が何と言ったか聞く立場にないことは理解してほしい」と言い、富山さんが「では、どういう形で伝えるのか」 と聞くと、「メモを見ながら主任書記官に伝えます」。富山さんが「文書としては残さないわけですか」と聞くと、「そういうことではなく、メモを見ながら伝 えています。それは信頼してもらうしかありません」。
すかさず、Hさんが「報告したらメモは抹消してしまうんですか」と突っ込むと、船戸氏「個人的なメモなので」、Hさん「去年の六月に来た時のメモは引き 継いではいないのですか」、船戸氏「そういうものはありません」、富山さん「報告書も出さないのですか」、船戸氏「報告書という形では出しません。皆さん のおっしゃったことは細かい内容も含む申し立てなので、次回は文書で出してもらえれば助かります。書面で出すのを原則とするので。今回は信頼してもらうあ りません」。
最後に、全員で証拠開示と再審無罪を強く訴えて申し入れを終わりました。
規則で申し入れの時間は三十分とのことで、三人の裁判所職員は三十分は義務でありがまんしなければならないとでもいうかのように、最後の方は時計の方を しきりに気にしていました。時計を見やりながら落ちつかない三人の職員に、「真面目に聞いているのか」と、申し入れが終わってからSさんが言っていたよう に「机をドンと叩いてやりたかった」は、全員の気持ちでした。
この日は台風が東京を直撃する大暴風雨という天気にもかかわらず、びしょ濡れになりながら集まってくださった「かちとる会」の方々、ありがとうございました。
申し入れの後、高裁前でビラまきも行う予定でしたが、とても出来る天候ではなく、ビラまきは九月十四日に行い、千枚をまききりました。 (山村)

申入書

 私は無実です。1975年1月13日の不当逮捕以来、一貫してこう訴え続けてきました。そして、1994年6月20日の再審請求以来、これに《一刻も早く再審を開始して無罪判決を出してください》という訴えが加わりました。これは、本当に、私の心からの願いです。
しかし、日を追うにしたがって私の切なる願いとは逆の方向に、すなわち真実に目を背けたまま誤判の訂正を拒否して、私の苦しみからの解放を妨げようとす る方向に向かっているように思われてなりません。再審請求からでも、すでに7年3ヶ月がたとうとしています。その間、裁判長の交代だけでも中川裁判長で5 人目です。そのたびに、しきりなおしになります。それが実現されるならば、たちどころに私の無実=真実は誰の目にも明らかになる検察官が隠し持っている証 拠の開示命令は、回避され続けているではありませんか。
私は無実です。この真実の訴えが、逆に私が罪を逃れるための嘘とされ続けていることがどれほどの苦痛を強いるか、わが身に置き換えて考えてみてください。ほんの少しの想像力さえあればできるはずで、けっして無理な要求ではないはずです。
私は、身に覚えのない「殺人犯」という汚名を晴らすにあたり、当たり前のことが当たり前のこととして実現される裁判、正しいことが正しいこととして通用 する裁判であれば、私の無実は判明すると信じて審理に臨みました。近代刑事裁判が到達した地平と成果をそのまま適用すれば可能なはずなのです。現に、第一 審(原々審)では、それができたではありませんか。ところが、第二審(原審)は《無実の救済》という刑事裁判の使命に背を向けて「逆転有罪」判決を下しま した。予断と偏見を押し通すために、あえて近代刑事裁判が到達した地平と成果を踏みにじったのです。あろうことか、最高裁まで職責を放棄して、確定判決= 誤判を容認してしまいました。20世紀末という時期なら当然おこなわれて然るべき裁判は実現されないまま今日に至っており、いっさいの矛盾は私に押しつけ られています。
私は無実です。私の無実=真実が踏みにじられたままであること―ここに私の苦しみの原因があります。あるべき裁判、当たり前の裁判、すなわち21世紀冒頭にふさわしい裁判を行ってください。そして、私を不当かつ理不尽な苦しみから解放してください。
中川裁判長はじめ3人の裁判官が原判決を自分の手で書くつもりで虚心坦懐に審理に臨まれるならば、必ず私の無実に気づかれるはずだと確信します。そし て、再審無罪判決を盤石のものたらしめるためにも検察官に証拠開示命令を出すだろうと信じて疑いません。誤りを率直に誤りと認めて改める裁判所のあり方こ そが日本の刑事裁判を血の通った信頼できるものにし、その前提があってはじめて、「法の安定性」はその名に相応しいものになります。検察官にたいする証拠 開示命令と再審開始・無罪を願ってやみません。
2001年9月11日

富山保信
東京高等裁判所第三刑事部御中

 9月の大井町での署名集めの成果は、
山村・・・・・・4名
うり美・・・・・2名
亀・・・・・・・0
富山・・・・・・0
ということで久しぶりに山村、うり美の圧勝でした。

 「明日のための第十八歩目(だったよね)。
大変な事態が同時ぼっ発しました。これを期に真実が明らかになり、事実に見合った報いがありますよう。そして全世界の共通の認識になりますように」というお便りとともに、二千円頂きました。ありがとうございました。