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ニュースNo158(2001年11月1日発行)

 

●ニュースNo258(2001年11月1日発行)◎法と心理学会第2回大会開かれる□大井町ビラまき報告

 

□法と心理学会第2回大会開かれる

富山再審弁護団と鑑定人が報告

10月20日、21日、「法と心理学会」第二回大会が、東京・一橋記念講堂で開かれ、昨年の第1回大会に続き、今回も富山再審弁護団や鑑定人による富山再審の報告がなされました。
報告は、2日目に行われた「口頭発表」で行われ、富山再審弁護団から小原健弁護士が「弁護人はなぜ心理学に接近したか」と題して講演しました。
続いて富山再審で鑑定書を提出しているK教授によって「目撃者の視力は顔識別にどのように影響するか(Ⅰ)――富山事件の目撃者(視力0・4)の視覚世 界」、H教授によって「目撃者の視力は顔識別にどのように影響するか(Ⅱ)――視力0・4の視覚世界に基づく写真面割りと髪型」と題する報告が行われまし た。

小原弁護士は、今回の報告の目的を「弁護人としての具体的事件の経験を通して、目撃証言に関する心理学上の知識を裁判実務に活用するための方策を考察する」として、富山事件の弁護を通して心理学に接近していった経過、そこでの成果、今後の課題等について発表しました。
小原弁護士は、まず、一審無罪判決をかちとったにもかかわらず、二審において、裁判官が写真選別についてのおよそ非科学的な「基準」を設け、富山さんに 有罪を言い渡したこと、上告審におけるの苦闘の中で、「被告人を見たことのない者が、状況の説明のみによって、被告人の写真を特定することができる」こと から、本件の写真選別で使われた富山さんの写真自体の暗示性に注目、心理学者に実験による検証を依頼した経過を報告しました。
「目撃者は、現実に目撃した犯人の容貌自体に基づく情報に依拠しなくとも、相当の確率で被告人の写真を犯人らしい人物として引き当てることができる」――1986年8月21日付H助教授(当時)の鑑定書。
この心理学者の協力を得た最初の鑑定書は、捜査官による目撃者に対する暗示・誘導のみならず、写真選別に使われた富山さんの写真が選ばれやすい条件にあったこと、つまり写真そのものに暗示性があったことを科学的に明らかにしたものでした。
しかし、最高裁は事実審理を行おうとせず、この鑑定書を取り上げようとしませんでした。そして、1987年11月10日、最高裁は上告を棄却しました。
小原弁護士は、弁護団が1994年6月20日の再審請求申し立てにおいて、上告審で提出した最初の鑑定書とともに、浜田美寿男教授の鑑定書「富山事件目 撃供述についての心理学的視点からの供述分析」(富山さんを「犯人」とする供述や写真面割り結果等は、捜査官の抱いた仮説の誘導力のもとに生み出されたも ので、信用できないことを明らかにしたもの)、「凶器注目効果の鑑定から、事件の目撃者の写真選別結果が心理学上、信頼性を欠くこと」を明らかにしたH教 授の鑑定書を提出したことを報告、再審請求後も、確定判決が「本件目撃証人中最も良質の証人」としたI証人の証言の信用性を突き崩すK教授の鑑定書やビデ オ映像、H教授の鑑定書を続けて提出していることを報告しました。
小原弁護士は、一審、控訴審段階では弁護団に心理学者の協力を求めるという発想がなかったこと、一審、控訴審でこうした心理学鑑定を出せていたら、状況はもう少し変わっていたかもしれないことを指摘しました。
再審では、「裁判官にとっては、確定判決で示された基準が、自己の判決において依拠するべき基準であり、その基準に科学的裏づけがあるか否かという問題 意識は希薄であり」、「人の同一性、識別供述が科学的知識に基づいて検証されなければならないことであることについて、裁判官を十分に説得することができ ていない」「今後の努力が大切」と率直な感想を述べられました。
小原弁護士は、今後の展望として、
「弁護人は、できるだけ早期に心理学者と接触し、人の同一性識別に関する問題点を把握し、具体的に主張、立証を展開するべきである。そのためには、人の 同一性識別に関する問題について、だれがどういう鑑定をすることが可能であるかという情報ネットワークが必要。日弁連がその機能を果たせるのではないか」 と提起され、
「科学的根拠に基づき、かつ裁判官の賛同も得られるような目撃証言ガイドラインが必要である。これについては現に法と心理学会でも進められている。できあがったガイドラインから、再審事件も見直してみる必要がある」
「法律実務家は、早期の段階で目撃証言について学習するべきである。目撃証言を、できるだけ科学的根拠に依拠して検証しようとする姿勢自体が、正確な証拠に基づく、正しい裁判を実現しようとする謙虚で合理的な姿勢に結びつく。
目撃証言を疑う姿勢は、証言の背後にある捜査官の意識的、無意識的な誘導を見抜く力を求める。それは、捜査の実態に対する知識と権力に対する健全な批判精神を必要とする。
また、目撃証言は、衝撃的で決定的な印象を与え、その結論は全か無かの先鋭なものになるので、明白な結論を示す目撃証言をあえて否定するためには、科学的根拠に対する信念と独善を戒める謙虚な人権感覚が必要である。
さらに、自己の経験則自体を対象化し、動かしがたい事実に照らして改変を施し、この改変を避けて論理操作で思い込みを絶対化する独善性や硬直した態度を乗り越える内面の作業も必要である。
考えてみれば、これは、虚心に証拠に向き合い、あくまでも真実を探求するという、あるべき事実認定の姿勢そのものである。
したがって、目撃証言論は、たんなる目撃証言の評価にとどまらない。裁判に対する姿勢そのものにつながる」と結んで報告を終わりました。

小原弁護士の報告の後、鑑定人のK教授とH教授の発表が行われました。
K教授は、1996年1月、東京高裁に提出した、確定判決が「本件目撃者中最も良質の証人」としたI証人の信用性を否定する内容の鑑定について報告しま した。この鑑定書は、100名に近い人々の協力を得た実験によって、視力0・4の目撃者が、初対面の人物の顔を16・45メートルの距離から識別(I証人 の目撃条件)することはできないことを明らかにしたものです。
K教授は、その後、このI証人の視覚世界をビデオ映像を用いて再現し、2000年7月に東京高裁に提出しました。この映像も会場のスクリーンで紹介されました。
さらに、弱い視力の者が人物同定をする場合に手がかりになると考えられる髪形に注目したH教授が、この映像を使って実験を行い、髪形を手がかりとしても、しなくても的確な人物同定はできないことを明らかにした鑑定書について報告しました。
K教授、H教授の報告は、コンピューターによる映像を駆使した大変わかりやすいものでした。会場のスクリーンに映された映像には、群青色が徐々に白みか けていく、太陽が昇る直前の空を背景にした山なみが描かれていて、これを、H教授は、報告の最後で「富山再審の夜明けをイメージしたものです」と説明され たのを聞いて、思わず胸が熱くなりました。
そして、一審以来、26年余にわたり富山事件の弁護に取り組んで来られた小原弁護士の報告は大変説得力があり、真実探求への思いの込められた格調高いものでした。
お忙しい中、報告を準備してくださった3人の先生方に感謝致します。(山村)

桜井善作さんが発行する  『野火』に載りました

木下信男先生が書かれた「裁判官の犯罪『冤罪』」の出版記念パーティに参加した時のこと、「無実の死刑囚・元プロボクサー袴田巌さん を救う会」の門間さんたち手作りのご馳走を、あれもこれもと夢中になって口に運んでいたうり美さんと私の所に、桜井善作さんが近寄ってきた。思わず箸を止 めた二人に、桜井さんは「今度、ゆっくり二人の話を聞いて、『野火』に載せようかと思うんだけど、どう?」と聞いてきた。
「エーッ、私たちなんかに何を聞くんですかぁ~」
「どうしてあなたたちみたいな女性が、富山事件なんていう難しい事件の支援をやっているのかと思ってさ、その辺のところを時間を取って聞きたいな。一度、インタビューさせてよ」
インタビュー?!
インタビューなんて、したことはあるけど受けたことはない。二人で顔を見合わせて「どうする?」
桜井さんは「いいのができると思うんだな。ね、また、連絡するから、考えておいてよ」
私たちがインタビューされるなんてと、くすぐったいような思いで、半分冗談かなと思った。
しかし、考えてみたら、桜井さんはそんなことを冗談で言う人ではなかった。9月になって、10月8日頃はどうかという問い合わせが来た。
富山事件のことで『野火』のインタビューを受けると聞いた時、富山さんは「それはすごいじゃない」とうれしそうだった。
「でも、私たち二人にインタビューしたいんだって」
「?」
「富山さんは来なくていいみたいよ」
「ふうん・・・」
富山さんはちょっと不満そうだった。

小金井市にある桜井さんのお宅におじゃました10月8日は、朝から雨の降り続く肌寒い一日だった。そして、その日の未明から、アメリカによるアフガニスタンへの攻撃が始まっていた。
うり美さんと駅からの道々、
「桜井さん、何を聞きたいのかな?」
「きっと、私たちみたいなのが富山事件やってるのが不思議なんじゃない?」
「アメリカのアフガン攻撃について意見聞かれるかな。何か意見言える?」
「わかんない。いろいろ聞かれたらどうしよう」
「桜井さん、私たちの内容のなさにあきれないかな」・・・
そんな不安を抱えて呼び鈴を押した私たちを桜井さんは温かく迎えてくれた。
インタビューは、やはり、アメリカによるアフガニスタン攻撃への感想から始まったが、緊張する私たちを前に、桜井さんがまず話を切り出してくれた。
「アフガンへの攻撃開始がニュースで流れて、けさから何人もの『野火』の読者が僕の所に電話をかけてきた。世界はどうなっていくのだろう、自分の子供は、孫の世代はどうなるのだろうという不安をみんな強く感じている」
桜井さんの話は、ブッシュへの批判から、「その尻馬に乗って」戦争体制をつくろうとする小泉首相への批判におよんだ。思わずうなづきながらメモを取る二人。どっちがインタビューしているのかわからない。
「あれっ、これじゃ、僕が取材されているみたいだな」と桜井さんも気づき、「実はこれで『かちとる会ニュース』の原稿が書けると思いました」と大笑いになった。これで少し緊張がほぐれた。
インタビューは、「9・11」、アメリカによる攻撃開始から小泉政権批判に始まり、それぞれが富山事件に関わってきた経過、富山再審への思い、阿藤周平 さんのことと続き、いつの間にか予定の1時間を大幅に過ぎていた。桜井さんは話を引き出すのがじょうずだ。この方を前にしているといろいろと話したくなっ てしまう。
(インタビューの詳しい内容は、『野火』の146・147合併号をご覧ください。そして、これを機会に『野火』も講読して頂けると幸いです)

インタビューが終わり、録音用のテープレコーダーがしまわれ、お菓子を頂きながらの雑談になった時、「で、どうして私たちから話を聞こうと思ったんですか」と、私たちが一番聞きたかったことを桜井さんに質問した。桜井さんが言われたのは次のようなことだった。

先日、9・11の後、仕事で海外に行く息子から「僕に何があっても、間違っても『無関係な人間を巻き込んで』なんて言わないでよね」と言われた。僕も息子に「good luck 」としか言わない。
世界のどこで起きたことでも、自分と関係のないことはないはずなんだけど、そうは思っていない人が実に多い。
富山事件のような政治的えん罪事件、しかも内ゲバ事件といった場合、ほとんどの人は自分とは関係のないことだと思っている。
しかし、こういう難しい事件がどう扱われるかに、その国の人権感覚、司法のあり方、政治状況が顕著に現れると僕は思っている。
こういう事件は自分とは無関係と思っている人たちに、あなたたちがどうして富山事件に関わっているかを知らせたかった。

富山事件を『野火』で取り上げて頂いたこともうれしかったが、それ以上に桜井さんといろいろお話できたことがうれしかった一日でした。 (山村)

『野火』の申し込みは、桜井善作さんまで

▼住所
東京都小金井市中町 3-19-12-423

▼振替口座
00150-3-66020 桜井 善作

▼購読料 1部 300円、半年 1700円、1年 3400円

▼今回の大井町での署名集めは、亀さんの「5名」のみ。
10月27日の「八海事件五十周年・東京集会」のビラまきに専念したため、署名集めの方は今ひとつでした。亀さん以外は・・・。亀さんってすごい。

▼その「八海事件五十周年・東京集会」のビラをお送りした読者の方から、次のような手紙と3000円のカンパが寄せられました。ありがとうございました。
「お手紙ありがとうございます。いつも御連絡を頂き、誠にありがとうございます。仕事の都合で参加できませんが集会の成功を祈っています。
ニュースは、大井町ビラまきを一番先に見ます(へんかもしれませんが)。続けてずーっとやっている事がとても大事な事と思い、この記事が好きです」

 「明日のための第18歩目。季節は秋です。夜はけっこう冷えるので鍋物にしてもよいかも。力がでますから。果物がおいしいからビタミン補給もできます」というお便りとともに2000円頂きました。ありがとうございました。
ところで、前回が「第18歩目」で、今回は19歩目です。

 9月の大井町での署名集めの成果は、
山村・・・・・・4名
うり美・・・・・2名
亀・・・・・・・0
富山・・・・・・0
ということで久しぶりに山村、うり美の圧勝でした。

 「明日のための第十八歩目(だったよね)。
大変な事態が同時ぼっ発しました。これを期に真実が明らかになり、事実に見合った報いがありますよう。そして全世界の共通の認識になりますように」というお便りとともに、二千円頂きました。ありがとうございました。