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ニュースNo177(2003年6月15日発行)

 

●ニュースNo177(2003年6月15日発行)◎東京高裁申入れ報告
申入書大井町ビラまき報告

 証拠は誰のものか―真実究明は証拠開示から

6・7富山再審集会

81名の方の参加で成功いたしました。参加くださったみなさん、集会の準備等で協力いただいたみなさん、ありがとうございました。
指宿先生の講演をはじめ、集会の報告はニュースで次号から順次行います。

講演中の指宿 信さん(立命館大学法学部教授)

写真は、  「『司法改革』と証拠開示問題」 講演中の指宿 信さん(立命館大学法学部教授)

 ◎集会でのアンケートから

“証拠は誰のものか”に対する確かな回答が示されました。正義を実現するために用いられる公共の財産だと、納得しました。
阿藤さんが訴えておられた敵の執念!これにうち勝つ再審闘争の実現が求められています。
本当の司法改革を私は私の再審無罪をかちとるなかで実現すると宣言した富山さんとともに闘い勝利しましょう。 (46歳・女性)

「かちとる会」の熱心な活動が伝わり、感動しました。
阿藤さんのお話涙が出ました。
微力ですが、何かできることがあれば協力させていただきたいです。ありがとうございました。 (5/26(月)に地裁に行く用事がなければ、今日の集会に参加することもなかったでしょう。) (35歳・女性)
【富山さんが地裁前でまいたビラを受け取って参加されました】

 東京高裁申入れ報告 

六月六日、富山保信さんの再審が審理されている東京高裁に、富山さん、阿藤周平さん、坂本さん、山村で再審開始を求めて申入れに行きました。

前回に続き今回も、係属部(第三刑事部)の裁判官はおろか書記官すら会わず、訟廷管理官が対応というものでした。以前は書記官室で申入れしていたのに、 一階の正面玄関横の狭い部屋でした。裁判官会議で決まったと言いますが、同じ建物内の東京地裁では書記官室で書記官に申入れしており、納得の行くものでは ありません。申入れの前、裁判所のロビーで待ちながら、今回も、阿藤さんは「わしらの頃はこんなやなかったけどな。身体検査なんてようせんで。裁判所が国 民から遠くなったんと違うか」と嘆いておられました。裁判員制度の導入によって「国民の司法への参加」などと言っていますが、裁判所はますます市民感覚か ら離れて行っているのではないでしょうか。

申入れは、予定通り三時三〇分から始まりました。裁判所側からは前回の船戸訟廷管理官に代わり、小池訟廷管理官、他二名が出て来ました。

最初に富山さんが用意していた「申入書」を読みあげたうえで、次のように訴えました。

「四月十五日に横浜事件の再審開始決定が出た。その時、マスコミからも、事件から六十年経っている、一人の人間の人権を回復するために六十年かかるのか と言われていた。横浜事件の再審開始決定の出る四月十五日の前、三月三十一日に最後の再審請求人本人の板井庄作さんが亡くなられた。人権は実際に迫害を受 けた人に対して速やかに回復されるべきなのに、間に合わなかった。

私の事件も再審請求から九年経っている。事件からは三十年が経過した。真剣に考えてほしい。毎年申入れに来て、前回も特に検察官に対して証拠開示命令を 出してほしいという要請をしたが、その気配さえ伺えない。事件現場で目撃した人は四十人いて、そのうち三十四人の供述調書があると捜査責任者である警察官 が控訴審で証言している。しかし、開示されたのはそのうちの七人分でしかない。残る二十七人分は検察官の手元に隠されている。これを開示させ、裁判所もそ れを見て判断してもらいたい。このことを裁判官にきちんと伝えてほしい」

そして、「今日は、八海事件の阿藤周平さんが大阪から来てくださっている」と阿藤さんを紹介しました。

八海事件の阿藤さんという名前に今回の小池訟廷管理官も副訟廷管理官も姿勢を思わず正し、メモを取っていた総務課の職員も顔を挙げました。阿藤さんが 「私の事件は半世紀も経っているから、あなた達は知らないかもしれませんが」と切り出すと小池訟廷管理官は「知っています」というようにうなづきながら じっと阿藤さんを見つめていました。

阿藤さんは続けて、「八海事件は無罪が確定するまで十八年かかった。その間、最高裁に三回行って、七回裁判所を行き来した。一人の真犯人の言葉に裁判所 が騙され、最後に最高裁第二小法廷で、これ以上新しい事実は出ない、これ以上被告とするのは忍びないということで破棄自判し無罪になった。

私が一番言いたいのは、検察官のやり方が不公正だということ。富山さんが言ったように、検察官は手持ちの証拠を出さない。八海事件でもそうでした。真犯 人の吉岡の上申書、阿藤たちは関係ないという文書を吉岡は最高裁、最高検、弁護士宛に出していた。それを検察官が指示して、広島刑務所は発送を差し止めて いた。そういう文書を書いたことで吉岡は懲罰を受けた。それで、吉岡は出所する人に、弁護人に伝えてと頼み、広島の八海事件の弁護人に伝えてもらった。そ れで明らかになった。八海事件の弁護人の一人、参議院議員でもあった亀田徳治さんが法務委員会で検察庁のトップを喚問したところ、吉岡の上申書があること を認めた。しかし、それでも検察庁は出そうとしなかった。最終的には最高裁が検察官に対して出すよう命令して、検察官は渋々出してきて、やっと明らかに なった。私は無罪になったが、この経過が未だに許せない。検察官がフェアにやるというのなら、すべての証拠を出せばいい。しかし、検察官は絶対に出そうと しない。裁判所が検察官に対して開示するよう命令を出してほしい。そこを裁判官によく伝えてほしい。

昨年、私がここに来た時、私も要望書を提出した。それが裁判官に届いたかどうか、私には確認しようがない。あなたはそれがどうなったか知っていますか」

小池訟廷管理官「届いていると思います」

「思います」という曖昧な回答に、阿藤さんが「裁判官の手に渡ったか、確認とれますか」と念を押すと、小池訟廷管理官「(ウーンと考え込んだすえ)部の書記官に届いていると思います」と答えを変えました。

すかさず、阿藤さん、「私は裁判官宛に出したのであって、書記官宛に出したのではない。八海事件の時は、担当の書記官が出て来て、必ず裁判官に見せますと言った。まだ開かれた裁判所でした」

小池訟廷管理官は「間違いなく部に渡っています」と言い換えました。

富山さん「『部』というが、抽象的な『部』があるわけではないでしょう」

小池訟廷管理官「いつでも見られる状態にしてあると思います」

阿藤さん「私も長い間、当事者として裁判所とつきあってきたが、書記官がしっかり事務処理をしているかが重要。書記官がほおっておくことはないのか」

富山さんや阿藤さんの追及に、小池訟廷管理官「いや、それは」とたじたじでした。

阿藤さん「富山君は、無実で十年刑務所に入っていた。代償がいかに大きいかわかりますか」

小池訟廷管理官「はい」

阿藤さん「しかも再審請求してから九年。裁判官に富山君の心情をわかってもらいたい」

小池訟廷管理官「はい」

阿藤さん「十年目ですからね。ほったらかしかと思いますよ。私が言ったことを、早く再審開始決定を出して頂きたいと裁判官によく伝えてほしい」

小池訟廷管理官「わかりました。部の方に間違いなく伝えます」

阿藤さん「素人が見ても富山君の無実はわかる。専門家の裁判官にならすぐわかるはず。一審は無罪だったんですから。一審の無罪判決は厳として存在してい る。それを無視することはできないはず。公正な結論を出してほしいと三人の裁判官にくれぐれも伝えてほしい」

小池訟廷管理官「わかりました。伝えます」

続いて、坂本さんから「私は以前郵便局に勤めていて、事件の被害者の山崎君とは同じ労働組合の活動をやっていた間柄だった。本当だったら自分の仲間がや られたということで、富山君の支援には関わらない。しかし、裁判の経過を聞くと富山さんが犯人だとは思えない。一審の判決と二審の判決を比べると、どうし ても二審判決がおかしい。富山さんが有罪というのが納得がいかない。それでこの運動に参加した。詳しく知れば知るほど、裁判所はデタラメだと思った。

検察官が証拠を隠しているのはフェアではない。すべての記録を出したらはっきりすると思う。出せばいいじゃないですか。

私はおかしいことはおかしいと、ちゃんと決着を付けて墓場に行きたいと思っている。郵便局に四十二年間いて、十年前に退職したが、それまで毎日、真面目 に赤い自転車で郵便を配って来た私の頭の中に、この事件がすっきりしないで残っている。ぜひ、裁判官に正しい判決を出すように伝えてほしい」

小池訟廷管理官「趣旨は部に伝えます」

再度、富山さんから、「万人が納得できる裁判をしてほしい。私一人の問題ではない。裁判所の側も万人が納得できる裁判をやる必要があるのではないか。再 審の場合、請求人は折衝の場にも行けない。裁判官は弁護人にしか会わない。それどころか今は書記官すら会わない。今のようなあり方はおかしいと裁判官に伝 えてほしい」

小池訟廷管理官「それは、裁判所として、意見として伺います」

富山さん「検察官の手持ち証拠はすべて開示されるべき。そのうえで判断するのが筋ではないか。検察官は私人ではない。公権力でもって証拠を集めている」

小池訟廷管理官「そのとおりです。公益の代表です」

富山さん「だったら、すべて開示すべきではないか。それに基づいて万人が納得できる裁判をやるべきではないか。現状はそれにまったく反している状態だ。 三十四人の目撃者の調書があることは検察官も認めている。最低限、これは開示されるべき。裁判所は開示命令を出してほしい」

坂本さん「持っている証拠をすべて出して判断するのでなければ裁判はデタラメになる」

阿藤さん「無罪、有罪を争っている裁判はフェアに行くべき。自供も物証もない。目撃者の証言だけの事件。その目撃者の調書を検察官が持っていて出さない のはおかしい。松川事件も諏訪メモが出なかったら有罪になっていた。争っている事件でこそ検察官はフェアにやるべき。検察官は権力を持っているから出さな くてもいいと思っているのだろうか。裁判は裁判官や検察官だけのものではない。国民が納得のいく裁判をやるべきなのに、それが実行されていない。八海事件 で、七回も裁判を繰り返し、最高裁に三回も行った原因は、証拠を隠し、上訴を繰り返した検察官にある。それを後押ししたのが裁判所ですよ。

ちゃんとした結論をお願いします。十年は長過ぎます」

小池訟廷管理官「どの事件も差別せずすべて同じ対応をしていると思います」

富山さん「だったらなぜ部にも行けないのか」

小池訟廷管理官「すべて同じに対応しています」

この段階で、すでに事前に「決められていた」三十分は過ぎていたのですが、小池訟廷管理官達は立ち上がりかねていました。

阿藤さん「ところでなんで身体検査をするんですか」

小池訟廷管理官「オウムとか暴力団の事件とかいろんな事件があるので」

阿藤さん「裁判所が国民から遠ざかったような気がします。大阪から来ても感じ悪いですわ」

小池訟廷管理官「現に七~八年前に裁判所の職員が刺されて死亡したことがありまして」

阿藤さん「八海の時は、書記官も支援の人に会ってくれました。署名も直接受け取っていましたよ」

小池訟廷管理官「昔は確かにそう聞いています」

阿藤さん「僕の妻が子供を連れて最高裁の裁判官の官舎をまわった。さすがに裁判官は会わなかったが、奥さんが会ってくれた。夏の暑い盛りに乳飲み子を抱 えて家内が要請に行くと、暑いでしょうと一歳の僕の子供にジュースを飲ましてくれたといいます。その頃に比べると逆行しているような気がする」

小池訟廷管理官「いろいろな事件がありまして、申し訳ありませんが」

署名524筆 最後に、富山さんが、この間、大井町をはじめいろいろな所で集めた署名524筆を提出して、申入れの内容を必ず裁判官に伝えるよう強く要請して申入れを終わりました。小池訟廷管理官は最後まで「部に伝えます」としか言いませんでした。

小池訟廷管理官の対応を見ていると、今回の申入れが裁判官に伝わるのか、どのような内容として伝わるのかわかりません。しかし、再審請求人本人の富山さ ん、八海事件の阿藤さん、そして坂本さんが来たことは大きなインパクトとなって間違いなく裁判官に伝わると思います。毎年の申入れは、裁判所前でのビラま きとともに決して無駄にはならないと確信しています。裁判官は富山さん、阿藤さん、坂本さん、署名してくださった多くの方々の声に謙虚に耳を傾けるべきで す。そして、一日も早く再審を開始するよう強く求めます。

以上、申入れの報告です。今回、山村は、富山さん、阿藤さん、坂本さんの三人の気迫に押され、ただひたすらメモを取るのに専念(レポート用紙13枚)しているうちに時間が終わってしまい、何も言えず終いでした。(山村)

申入書

1994年6月20日の再審請求から、9年がすぎようとしています。無実を叫び続けて9年、否、1975年1月13日の不当逮捕 以来28年半、私は無実を叫び続けているのです。その間に、私の真実の訴えを正しく受け止めてくれたのは原々審(東京地方裁判所)の無罪判決だけでした。

近代刑事裁判が到達した地平から見るとき、原々審・無罪判決と原審・有罪判決のどちらが説得力を持っているでしょうか。確定判決(原審・有罪判決)は、 近代刑事裁判が到達した地平に立ち、近代刑事裁判が達成した成果を踏まえたものといえるのでしょうか。無実を叫ぶ当事者という私の立場を離れても、近代刑 事裁判が到達した地平を踏み外し、近代刑事裁判が達成した成果を拒否していると断ぜざるを得ません。その結果、無実という厳然たる事実=真実を見誤り、私 の人権を踏みにじっているのです。

人権の擁護―貴裁判所は断固としてこれを支持されると思います。しかし、人権・人権の擁護は抽象的にこれを論じるのではなく具体的に、貴裁判所の立場に 即すならば審理の場において実現しなければなりません。それをもってはじめて人権は守られ、確立され、発展させられるのです。貴裁判所の責任を果たしてく ださい。

私は無理な注文をしているのではありません。ふつうの市民がふつうの感覚で当たり前の裁判と考える裁判、すなわち近代刑事裁判が到達した地平に立って確 定判決を吟味して欲しいと望んでいるのです。そうすれば、たちどころに確定判決の誤りに気づかれると確信しています。

検察官に証拠開示を命じてください。確定判決は論理学的にも破綻しています。なぜそんな恥ずべき事になっているのでしょうか。それは無理矢理、白を黒と 言いくるめようとしているからです。検察官が隠匿している27人分の目撃供述調書が開示されれば、私の無実は明らかになります。貴裁判所は、近代刑事裁判 の原則・鉄則に照らして有罪を言いわたすことはできない=無罪とすべきだったという段階から一歩進んで、歴然たる無実だから無罪であると確信をもって言い わたすことができるようになるのです。万人を納得させる審理を行うためにも、証拠開示命令を出してください。

私は、これ以上「殺人犯」の汚名を着せられたままでいることには耐えられません。無実という真実が否定されて無実を訴えている私の人格も否定されている こと、そして誤判の被告として刑事裁判史に汚名をさらし続けていることの苦痛から一刻も早く私を解放してください。それができるのは貴裁判所だけであり、 それは裁判官としての良心と職責に忠実に従えば可能なのです。

誤判の訂正は、ひとり私のみならず同時代と次代を生きる人々の人権の擁護を意味します。それこそ裁判官の使命ではないでしょうか。

すみやかな証拠開示命令と事実審理の開始を願ってやみません。よろしくお願いいたします。
富山 保信

2003年6月6日
東京高等裁判所第三刑事部御中

 

大井町ビラまき報告

 大井町でまいているビラには署名用紙が付いている。最近、2月にまいたビラに付いていた署名用紙に署名をいっぱいにして送ってくださった大井町の方がい た。署名集めの場ではビラを受け取るだけでも、その後、家に帰ってビラを読んで共感し署名を送ってくださる方がけっこういる。大変だが、毎月、地道にやっ ていることは意味を持っている。

花 ニッコウキスゲ ところで、今回の大井町での署名は、富山さんとうり美さんが0。二人の羨望の眼差しを尻目に山村は六名。

りんかい線の開通によって、いつも署名を集めている大井町駅北口は大きく様変わりし、それに伴って人の流れも変わったように思う。やはり大型店のある改 札口の方が通行量が多い。「場所が悪い」「私がまいたビラを受け取ったのに、そっちで署名した」と言い訳をしている二人に合わせて、たまには場所を変えて やるのもいいかもしれない。亡くなられた佐藤さんと一緒に署名集めに立ったのも、木原さんと出会ったのもこの北口で、私としてはこの場所はなかなか捨てが たいのではあるが・・・。

そういえば、事件現場の周辺も、事件説明の時にいつも名前の出てくる角の電気店(川崎実業)がマンションになるなど、どんどん変わっている。事件現場か ら、逃走方向の仙台坂に向かう道路の幅は当時とあまり変化がないので現場検証や目撃実験をやるのには差し支えないとは思うが、早く再審開始決定を勝ち取ら ないと事件はどんどん風化していってしまう。そう考えていくと体が熱くなるような焦りを感じる。あれもやりたい、これもやらなければ。しかし、日々仕事に 追われて時間がない。だが、時間はつくるもの。落ち込んではいられない。ここで鉢巻きを締めなおし、攻勢に出よう。署名も勢いが物を言うのだと思う。
「地道」プラス進攻精神で頑張ろう。(山村)

(写真の花はニッコウキスゲ。今、日本の山で散策する多くの人たちの目と心をなごませてくれています。)

大井町のYさんから

 「明日の為の第三十六歩目、
寒暖の激しい年は何かが変わる年です」

というお便りとともに2千円いただきました。ありがとうございます。
なんとしても変えたいものです。

【編集後記にかえて】

「証拠は誰のものか―真実究明は証拠開示から 6・7富山再審集会」準備等のため、ニュースの発行が遅れたことをお詫びいたします。