□証拠開示を!
弁護団が上申書を提出
十一月二日、富山再審弁護団は、富山さんの再審(異議審)を担当している東京高裁第四刑事部に対し、証拠開示を求める上申書を提出しました。
この間、弁護団は、未開示の証拠を開示をするよう検察官に対し要求してきましたが、検察官は頑(かたくな)に証拠開示を拒否し続けています。弁護団は、 この上申書において、検察官に対する証拠開示命令もしくは勧告を行うよう東京高裁に強く求めています。
上申書は、富山再審における証拠開示の重要性、必要性について全面的に展開されているので、以下、紹介します(掲載するにあたり、一部省略しました。また、名前の一部について仮名としています)。
記
第1(略)
第2 本件における証拠開示の重要性
本件において証拠開示を行うことが、不可欠であることはこれまで繰り返し述べてきたところであるが、以下、弁護人らが開示を求めてきた各証拠のうち主要なものについて、開示の重要性を再度詳論する。
1 目撃者の供述調書および捜査報告書
(1) 開示の重要性
確定判決によれば、本件については約40名の目撃者がおり、そのうち供述調書を作成した者が34名、写真面割りを行わせた者が26名あったとのことであ る(確定判決5丁)。そして、写真面割りにおいては、26名のうち11名が請求人の写真を抽出し、数名がHの写真のみ、または同人の写真と他の者の写真を あわせて抽出した(同)。ところが、本件で証人として出廷し、あるいは供述調書が開示された目撃者はわずか7名のみである。目撃者の中には、請求人を犯人 として選別しなかった者も存在するにもかかわらず(現に、弁護人らが独自に事情聴取を行ったK、Kyの両名は、「指揮者」について、請求人と明らかに異な る容貌を述べている)、それらの者の供述調書および捜査報告書(以下、「供述調書等」という)は一切公になっていない。それはなぜなのか。なぜ7人が選ば れたのか。
目撃条件の良し悪しということを考えるならば、Yは岩永省一と一緒に現場付近におり、ほとんど同一の条件で本件を目撃している。視力の点で問題のある岩 永に比べれば、むしろ目撃条件はよかったとも言えるだろう(もっともYの当時の視力は証拠上明らかになっていない)。さらに、目撃直後に岩永とYが指揮者 の顔について話し合ったとする岩永の供述がかりに事実であるとするならば、供述聴取時の記憶の保持の程度についても、Yが岩永に劣るとは考えづらい。ま た、KとKyは、大井秀夫の運転するタクシーに乗客として乗り合わせて、本件を目撃しており、両名と大井との間に目撃条件の差違はほとんどない。そして、 大井の供述が捜査、公判段階を通じて変転を繰り返しているのに対して、Kは、弁護人らの複数回にわたる事情聴取に対して、一貫した供述を行っているのであ る。
このようにして見ると、検察官が多くの目撃者の中から7名を選別したことには、公正な裁判の実現という観点から見た合理的な理由、基準が存在していると はとうてい言えない。そして、検察官は、再三の弁護人らの求めにもかかわらず、7名以外の目撃者の供述調書等の開示をかたくなに拒み続けてきた。こうした 経過からすると、検察官は、請求人を指揮者とする自己の仮説を立証するために、多くの目撃証言の中から、自己に都合のよいもののみを恣意的に選別し、都合 の悪いものは隠してしまっているものとしか考えられないのである。
本件における目撃証言の信用性を判断するためには、すべての目撃者についての供述調書等が開示され、それぞれの供述の内容、目撃条件等を詳細に吟味し、 相互に比較を行うという作業が行われることが不可欠である。そうした作業が行われない限り、検察官による恣意的な証拠の選別という疑念は払拭し得ない。請 求人を犯人ではないとする供述が存在する以上、その供述の信用性も吟味した上で、検察官の選別した7名の供述の方がより信用性が高いということが確認され なければ、7名の供述を請求人を有罪とするための根拠として用いることはできないはずである。他の目撃者の供述調書等を未開示のまま放置することは、真実 の究明のために不可欠な作業を放棄することであり、正義に反することでもある。
(2) 個別の証拠について
証拠開示をめぐるこれまでの検察官との交渉の過程において、いくつかの証拠についてはその存在が具体的に明らかとなっている。前述のとおり、本件におい ては、すべての目撃者についての供述調書等の開示が不可欠であるが、現在弁護人が把握している範囲内において特に重要であると思われる二、三の証拠につい て、その特質を述べる。
①Yの供述調書
1998年9月の検察官との折衝において、検察官が存在を認めた。
Yは、本件で「最も良質の証人」(確定判決38丁)とされた岩永省一の同僚であり、本件犯行当時、岩永と一緒に現場付近で犯行を目撃している。
原決定は、岩永の視力と目撃距離につき、確定判決が誤った認定をしていることを裏付ける証拠があると認めている(原決定17頁)。目撃証言の信用性を判 断するにさいし、目撃者の視力と目撃距離とはきわめて重要な要素である。その点に関する前提が崩れたのであるから、岩永の供述の信用性については、改めて 慎重な判断を行わなければならない。まして、岩永の当時の視力と目撃距離では人物を特定することはできないとの鑑定書も存在しているのであるからなおさら のことである。前提となる目撃条件が異なる以上、確定判決において採用した材料のみで、岩永の供述の信用性を安易に肯定することはできないはずである。そ して、岩永供述の信用性を判断するにあたっては、ほぼ同一の条件で本件犯行を目撃したYの供述内容との比較を行うことがきわめて有益である。
また、岩永は、目撃直後、Yと指揮者の風貌について話し合ったと供述している。原決定は、この事実をもって、岩永供述の信用性の根拠のひとつとしている のであるが(原決定18頁)、上記のように安易に信用性を肯定すべきでない岩永供述について、その信用性を肯定するための根拠として用いるのであれば、少 なくともYの供述調書を開示させることにより、直後に話し合ったとする岩永供述の内容の信用性を裏付けることが要求されるであろう。この点でも、Yの供述 調書の開示は不可欠である。
なお、Yはすでに死亡しており、供述調書の開示によってしか、当時の供述内容を確認することができないため、開示の必要性はきわめて高い。
②K、Kyの事情聴取報告書
このうちKyの事情聴取報告書については、1998年9月の検察官との折衝において、検察官がその存在を認めている。
Ky、Kの姉弟は、大井秀夫のタクシーに乗客として同乗し、同人とほぼ同一の条件で本件を目撃している。大井の供述は、前述したとおり、捜査、公判段階 を通じてきわめて変遷しており、一審における反対尋問期日だけでも11回を数えるという異常な状況を示している。こうした同人の供述の信用性については、 それを慎重に吟味すべきことは言うまでもない。K姉弟の事情聴取報告書の内容と大井の供述とを比較することにより、大井の目撃当初の認識内容や、その後の 供述変遷の背景を推測することが可能になる。
また、ことにKは、その人格的信頼性、知力の高さ、目撃条件などの点で、さらに弁護人らの事情聴取に対する供述内容の合理性、一貫性、迫真性といった点においても、まさに第一級の目撃証人であり、その証拠価値はきわめて高い。
なお、Kyも、Y同様すでに死亡しており、事情聴取報告書の開示以外に当時の供述内容を確認することはできなくなっている。
2 請求人の逮捕写真
各目撃者が目撃した指揮者と請求人との同一性判断の是非を検討するためには、本件発生当時の請求人の容貌を正確に確認しておくことが重要である。かりに 目撃者が、ある時点における請求人の容貌と合致する容貌を供述していたとしても、本件発生当時における請求人の容貌がそれと著しく異なるものであったなら ば、その目撃者は請求人を指揮者として識別していたものとは言えないだろう。そして、本件発生当時の請求人の容貌を確認するために最も有用なのは、本件発 生当時に近接した請求人の本件での逮捕写真を確認することである。
本来、逮捕写真は、目撃者の供述調書に添付されるなどするのが通常であるが、本件ではどういうわけか本件での逮捕写真が公になっていない。本件での逮捕 写真については、2001年3月の検察官との折衝の中で、検察官が存在を認めたが、開示による弊害がまったく存在しないにもかかわらず、検察官は開示を拒 否した。逮捕写真のような基本的なものすら開示しないという検察官のきわめてかたくなな姿勢は、検察官の手元に請求人にとって有利な証拠が存在しており、 何としてもそれを隠し通さなければとの強固な意志をうかがわせるのである。
3 前進社の出入りに関する捜査記録書類、尾行に関する捜査記録書類
本件当時、警視庁は、いわゆる過激派に対する情報収集活動の一環として、中核派の拠点である前進社に出入りする者を監視し、また、中核派のメンバーを追 跡尾行しており、これらの捜査に関する報告書等の捜査記録書類が存在するものと思われる。このうち前進社の出入りに関する捜査記録書類については、一審担 当検察官が、弁護人との折衝のさい、その存在を認めていた。
本件においては、アリバイに関連して、本件犯行前後の請求人の行動がひとつの争点となっているが、上記の各捜査記録書類は、まさに請求人の行動を記録し たものであり、アリバイに関する第一級の証拠となり得るものである。このような直接的かつ重要な証拠がなぜ開示されないのか、はなはだ疑問である。
第3 公判未提出記録等の目録の開示
弁護人らは、2003年10月24日付で、公判未提出記録の全部の目録の開示を検察官に対して命令もしくは勧告されたい旨の申立を行った。その必要性に ついては、同日付の申立書記載のとおりである。要するに、従前の裁判例は、弁護人から、具体的必要性を示して、開示を申し入れることを証拠開示命令の前提 としているところ、検察官の手元にいかなる証拠が存在するのかすら不明な状態では、弁護人において、開示の具体的必要性を示すことは不可能もしくは著しく 困難であり、結局のところ、証拠開示はほとんど実現されず、ひいては再審制度の実効性そのものが損なわれてしまうということである。
再審制度の存在意義を有名無実化させないために、前記の各証拠と合わせて、公判未提出記録等の目録についても、検察官に対し、開示を命令もしくは勧告されたく重ねて上申する次第である。
第4 結語
弁護人らは、再審請求直後から、一貫して証拠開示を求め、再三裁判所に対して申し入れを行ってきた。しかしながら、証拠開示に関して裁判所から働きかけ がなされることもなく、証拠開示請求に対する判断すらなされないまま、再審棄却決定が下されてしまった。本件において、公正な判断をなすにあたり、証拠開 示を行うことが不可欠であることは、前述のほか、異議申立書の55頁以下などで、これまで繰り返し述べてきたとおりである。証拠開示を行わないまま再審請 求を棄却した原決定は、当然なすべき職責を放棄したのであり、これはきわめて不当というばかりでなく、適正手続を保障する憲法31条に違反するものであ る。本異議審においては、すみやかに検察官に対し証拠開示を行わせ、適正手続を保障し、公正な裁判を実現されたい。 |