□たゆまざる努力を依田敬一郎 富山保信様 前略、請求が棄却されたことは真に残念なことです。しかし、私の記憶では、再審決定は何度も請求棄却を経た後何回かのたゆまざる請求の結果認められる、というのが通常だと思っていますので、今後も引き続きご努力されることを願っています。 さて、棄却の決定書とこれに対する異議申立書写をいただき、早速読ませていただきました。決定のこじつけ理論には激しい憤りを感じます。また、異議申立 書は、まだ、第一の浜田鑑定書のところだけしか読んでいませんが、弁護人の先生達のご努力には敬意を表するものです。決定書について、私のような老人の弁 護士が意見を述べるべきではないと思いますので、感じたことだけを二、三述べさせていただきます。 その一は、検察官の控訴趣意として、「この種事件における捜査初期の員面は、警察官の尋問技術ないし調書技術の巧拙に左右されやすいこと」とあるところ です(11頁)。それならば、警察官の尋問技術ないし調書作成の巧みな技術による誘導によって、いくらでも被疑者に不利益な員面調書ができるわけです。私 は、この検察官の控訴趣意は、本件の員面調書が警察官の誘導によるものであるという浜田先生の意見を認めたような感じがします。 その二は、浜田鑑定は、「仮にその新規性を認めるとしても、既に述べたところ、例えば、鑑定経過に多分に推測の要素が入っていることなどに照らし、確定 判決が採用した証拠の信用性判断を揺るがす明白性があるとまではいえない。」とある「推測」という言葉です(12頁)。この点は、異議申立書(8頁)にも 「「推測」(実際には推論だが)」とありますが、私は「推測」でよいと思っています。広辞苑(岩波書店)では、「すいそく【推測】(ある事柄に基づいて) おしはかること。」とあり、広辞林(三省堂)では、「すいそく【推測】①おしはかること。推量。「心中を―する」②推理」とあり、また、推理については、 「すいり【推理】①わかっている事をもとにして、まだわからない事柄をおしはかって考えること②〔哲〕」(以下略)」とあります。即ち、「推測」という言 葉は推量という意味と推理という意味があるのです。推理ということを推測といってもよいのです。私は、浜田先生の鑑定書そのものは拝見していませんが、以 前に頂いた弁護人の意見書によれば、浜田先生が推測を推理(演繹的推理と帰納的推理を兼ねた推理)の意味で使われたことが明らかだと思います。 その三は、弁護人の「所論は、Kの供述は詳細で、合理性、迫真性、一貫性があること・・・などから・・・供述は極めて信用性に富むと主張する。」とある ところです(21頁)。私は、弁護人の請求書を拝見していませんが、その意見書は「合理性、迫真性、一貫性」となっていて、「詳細で」ということがありま せん。私は、供述書が「具体的」、「詳細」であることは、それの不存在が真実の信用性が無いことの理由とはなっても、それの存在が真実の信用性の理由には ならないと思っています。もし、具体的、詳細であればそれが真実だというなら、小説家の小説は総て真実ということになってしまうからです。このことは、宇 和島事件で、「自白について、検察官は、真犯人出現以前の当初の論告で『その内容は犯人でしかなしえない供述を含んでいるとともに、具体的、かつ詳細で客 観的証拠に符号していることなどに照らし、高度の信用性を有するものと認めるのが相当である。』と述べている。」(浜田寿美男著『自白の心理学』43頁) とあるところです。決定は、具体的、詳細で迫真性があれば真実という事実認定の通弊を表したものだと思っています。 私も、老人となり、何もお役に立てないで申し訳ありませんが、できることはさせて頂きたいと思っています。ご健闘を。 4月22日 |
依田さんは、私の同窓の大先輩です。日弁連の研究会で面識を得、青年法律家協会の発足メンバーであることも知りました。かちとる会主催の集会に参加していただくととも に、いろいろ教えていただいています。再審請求棄却情勢にあたっても、東京高裁第三刑事部への「慎重な審理を」という要請の呼びかけ人になっていただきま した。
今回も、さっそく激励の手紙をいただいたので、依田さんの許可を得てニュースで紹介します。依田先生、これからもよろしくお願いいたします。 (富山) |
6月の結果は、 「ハルウララは決まったね」「やっぱり実力だよね」「また原稿を書かなくちゃね」「勝負の世界は厳しいのよね」等々、今日もまた一段とかしましい三人の声を振り切って、定例会の会場に向かうと、坂本さんが来ていた。 休載 |